2021 Fiscal Year Research-status Report
資産価格バブルの発生時点を予測するマクロ経済モデルに関する基礎理論研究
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20K22087
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
湯淺 史朗 一橋大学, 経済研究所, 特任講師 (30876694)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | 資産価格バブル / 合理的バブル / マクロ経済学 / 動学的一般均衡モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度はバブルに関する日本語文献の調査を行なった.日本は平成景気において世界的に見ても規模の大きい資産価格ブームを経験しており,他国と比較してもバブルの研究が盛んに行われてきた経緯がある.日本のバブル関連文献を調査することは,当該研究課題の分野内での位置づけをより精緻にする上で重要である.特に2021年5月に出版されたバブル経済理論の研究者の著作に重きを置いて調査を行った.この書籍はバブルの経済理論研究のサーベイのみならず,資産価格ブームが起きた各国の現実経済の状況等についてもよくまとめられており,他の著名な研究者からも高い評価を受けている.この調査の結果として,第一にバブルと低金利との間の関係は当該分野において昔から関心が持たれている問題であること,第二に当該研究課題で議論するようなバブルの発生についてのより深い議論,研究はあまり成されていないことなどがわかった.当該研究課題の執筆においても低金利状況を絡めたバブルの発生メカニズムについての議論も必要になると考えられる. 2021年度後半においては,経済学分野のトップ誌であるAmerican Economic Review発行母体であるAmerican Economic Associationが主催する2022 Annual Conferenceのいくつかのバーチャルセッションを視聴し,マクロ経済学を含む経済学の各分野の最新の研究を調査した.この調査の結果として,第一に分野を問わず新型コロナ関連の実証研究が盛んであること,第二にマクロ経済学においてはパネルデータと自然実験を用いた実証研究が増えてきていることがわかった.今後当該研究を上位ジャーナルに投稿する際にはバブルの発生という経済問題の重要性,当該研究が提示する理論の実証可能性についてより論文内で深く議論する必要が出てくると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究代表者の病気の治療が難航していることが原因で計画を遂行できていないため遅れているという自己評価を下した.研究代表者は2020年度末から病気を患っており,2021年度も引き続き治療を受けていた.治療の進展に期待し当該研究課題を中断することはしなかったが結果として成果はあまり得られなかった.2021年度末までの段階で研究代表者の体調を十分に回復させる治療薬は見つかっておらず,読解,執筆および学会などでの研究発表等の当該研究課題の遂行に不可欠な活動に割ける時間が著しく減っている状況にあった.従って2021年度は当初の研究計画を変更し,活動できる時間を用いて日本語文献の調査,海外コンファレンスの録画の閲覧などの負荷の少ない作業を行なった.このような負荷の少ない作業への変更を行なっても作業の進捗能率は改善されず,結果として2021年度の成果は少数の研究をレビューするのみに留まってしまった.今後,病状の回復にあまり期待せずとも十分に実行可能な研究計画へ変更する必要があることは明白であると思われる.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画を変更し,バブルの発生理論の純粋交換経済モデルの論文1本を投稿することを最終的な目的とする.当初の計画では2021年度までにこの論文に加えて生産経済モデルを用いたバブルの発生理論の論文を投稿,およびこれらの論文の海外学会での報告を予定していた.しかし研究代表者の病気によってこれらの活動が殆どできなかった.2022年度も病状の進展がないとすると当初の目的が達成される蓋然性は低いと言わざるをえない.現在の分析結果のみで執筆可能な論文の投稿に専念した方が実現可能性が高いと考えられる.従って,当該研究の最終的な目的を論文の投稿に絞り最低限の成果を得ること,及び成果の社会への還元を可能な限り行うことに変更する. 当該研究計画実行にあたっての最大の課題は研究代表者の病気の症状の急激な変化への対応であるが,次のような方針で対処していくことを考えている.第一に,学会での研究発表など決められた日付に出席する必要がある活動は諦め,論文執筆に注力することである.研究代表者の病状の変化は長期的な予測が難しく,学会への投稿日と開催日程の間に大きな時間の隔たりがある活動が成功する確率は高いとは言えない.学術誌への投稿プロセスも改訂の締切等があるが,どこかに出席する必要はないため学会発表よりは成功の確率が高いと考えられる.従って後者の活動に専念することで,病気の状態悪化によるリスクを減らすことを試みる.第二に,治療がうまく進んだ場合には可能な限り国内外のワークショップでの報告を行い研究成果の社会への還元をはかることである.ワークショップ発表は学会発表と比較して,発表の依頼から実際の発表までの時間が短い傾向があると思われ,病状の予測対応が行いやすいと思われる.治療の効果が十分に得られた際には,国内外の研究者に連絡を取り実行可能な範囲の発表の機会を獲得し,当該研究の成果を極力公表することにつとめる.
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Causes of Carryover |
研究代表者の病気により研究報告,リサーチアシスタントの雇用などの活動がほとんど行われず各種経費が使用されなかったことが次年度使用額が生じた大きな原因である. 2022年度の資金は論文執筆にかかる投稿料,校閲料,及び研究代表者の病気の治療が進展した場合の研究報告を行うための旅費に使用する.また分析に使用していたパソコンがまもなく耐用年数を迎えるため,資金の一部を設備更新の物品費として使用する.論文の数学的証明部分を検証する要員としてリサーチアシスタントを数人雇う.
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