2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K22101
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
井上 達樹 東京理科大学, 経営学部ビジネスエコノミクス学科, 助教 (10876626)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | 経済史 / 計量経済史 / 近代日本 / 質屋 / 小口金融 / 低所得層 / 死亡率 / 社会保障 |
Outline of Annual Research Achievements |
プロジェクトの第二年度にあたる本年度は、前年度に構築したデータ・ベースを用いた統計解析を実施し、得られた推定結果を論文にまとめた。作業工程としては、第一に、記述史料を用いた史料分析により把握した史実を基に、本研究課題の核となる仮説を再構築した。具体的には、従来私営質屋に期待されていた社会事業としての性質が公益質屋に引き継がれ強化されたため、公益質屋の融資は健康状態の改善に貢献する一方、私営質屋の融資からはその効果が失われているという仮説を設定した。また、乳児死亡や死産を減少させるメカニズムについて、融資を用いた衛生状態の維持や母親の健康状態の改善によるものであると定めた。第二に、仮説に沿った統計モデルを定式化し、統計解析を行った。これにより、公益質屋による融資が乳児死亡率並びに死産率の減少に寄与していたことを明らかにした。同時に、私営質屋の融資にはこうした効果が見られなかったことを確認した。これらは史料分析による結果と整合的な結果であった。第三に、上に記した公益質屋の融資が持つ健康状態を改善する効果のメカニズムが、歴史史料に基づいて推測していたものと合致することを解明した。加えて、得られた推定結果の頑健性を検証するため、複数の統計学的テストを実施した。検定結果は、いずれも統計解析結果の頑健性を支持するものであった。最後に、これら一連の分析結果を論文としてまとめた。また、質屋融資に関連する副次的テーマとして並行して進めていた、公益質屋が普及する以前の感染症の流行時にそれらに対処するために私営質屋が利用されていたことを明らかにした論文が国際学術誌に採択された。さらに、戦前期の健康状態に焦点を当てた関連研究については、査読付き国際学術誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度に構築したデータ・ベースを利用した統計解析については、当初の研究計画通り行うことができた。また、関連研究についても進展が見られた。しかしながら、新型コロナウイルスの影響が想定していたよりも長引いたため、予定していた国内外の学会やセミナーでの報告を行うことができず、論文の十分なブラッシュアップができなかった。以上の点から、本年度の研究の進捗状況はやや遅れていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は本年度に十分にできなかった国内外の学会やセミナーでの研究成果の報告を中心に進めていく。それにより得られたコメントを反映することで、論文の質の向上に努める。そして、査読付き国際学術誌からの採択を目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大により研究成果の報告とそれによる研究内容の改善に滞りが生じたため。次年度は上記の点を進める計画である。
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Research Products
(1 results)