2020 Fiscal Year Research-status Report
分権的組織における業績管理システムの設計と運用の相互作用効果
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20K22126
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Research Institution | Meikai University |
Principal Investigator |
鬼塚 雄大 明海大学, 経済学部, 講師 (30875985)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 業績管理システムの設計 / 業績管理システムの運用 / 分権的組織 / 多国籍企業 / 経営企画部門 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,既存研究に残された課題を解決するために先行研究において看過されてきた業績管理システムの「運用」へと着目し、設計上同様の(あるいは類似した)業績管理システムであってもその運用方法によりマネジャーへと与える影響が異なることを実証的に示すことを研究目的としている。現在までに,特に多国籍企業を中心として,業績管理システムをどのように運用することで,マネジャー(在外子会社トップ・マネジメント)の意思決定にどのような影響を与えうるのか,そしてそうした影響はある特定のコンテクスト要因によって,左右されうるのかという点が明らかとなっている。具体的には,埋め込み理論を援用することで,本社‐子会社関係に作用する在外子会社の現地利害関係者に対する埋め込み度を考慮に入れ,在外子会社に対する業績管理システムの影響を検討した。本社による業績管理システムの運用と在外子会社の埋め込み度との交互作用項を検討し,その関係性について経験的証拠を提示した。結果としては,現地顧客に対する在外子会社の埋め込み度は本社による業績管理システムのインタラクティブな運用の影響を抑制する一方で,現地サプライヤーに対する埋め込み度は業績管理システムのインタラクティブな運用の影響を促進するという結果が確認された。このように,在外子会社がどのような現地利害関係者からの影響を強く受けているかによって本社PMSの影響が異なることを示した点は先行研究にない本研究の意義といえる。また,在外子会社がどのような現地利害関係者と強い関係にあるかによって業績管理システムの影響が異なることを示したことにより,研究結果に関する一貫性の欠如という先行研究の課題に対する解決策を提示することもできた。加えて,業績管理システムの設計と運用に深く関連するとされる経営企画部門について,その業務特性と業績管理システムとの関係性の一端も解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は,申請前の準備段階において数多くの郵送質問票調査を実施することで多くの分権的組織のデータを収集済みであり、強固なフレームワーク構築に必要となるインタビュー・訪問調査先もこれらの郵送質問票調査をもとに100件ほど確保していた。特に、これまで限界の指摘されてきた先行研究のフレームワークを援用するのではなく、その限界を解決する新たなフレームワーク構築を目指している点で、上記のインタビュー・訪問調査は必要不可欠となる。しかしながら,昨今の新型コロナウイルス感染症の影響により,インタビュー・訪問調査が当初計画より遅れており,また研究成果の発表(特に国内外学会での発表)にも困難な点がつきまとう。このような状況ではあるものの,インタビュー・訪問調査は遅れつつも遠隔等により実施しているため,研究遂行上必要となるデータは概ねそろっていきている。研究成果を発表する先としての国内外の学会については,遠隔での対応とするところも多くなってきており,発表した研究者と意見交換することで知見を昇華する機会も確保できる可能性が高い。以上のとおり,当初計画より若干の遅れは認められるものの,十分に取り戻せる範囲であり,2021年度中には概ね完遂できよう。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況と理由】において記載した通り、インタビュー・訪問調査を遂行しつつ、定量データの分析およびその結果の検討を進めることで、研究計画の第2段階および第3段階(最終段階)を進めていく。具体的には、構築したフレームワークについて、定量的アプローチをとり、フレームワークによって示された運用方法の違いによってマネジャーの意思決定行動に異なる影響を与えることを実証的に示す。フレームワークを用いて実証分析を行うことで、フレームワークの妥当性を示していく。そして研究の第3段階として、これまでの研究を総合し、設計上同様な特徴を持つ業績管理システムであっても、その運用方法によってマネジャーの行動に与える影響が異なることを実証的に明らかにする。 例えば、異なった研究結果が示されている「多面的指標」が設計された業績管理システムについて、「業績管理システムの影響」は「トップ・マネジメントが業績管理システムをどのように運用するか」によって調整されることを明らかにしたい。先行研究では、「多面的指標」が設計された業績管理システムについては、既存研究にてその有用性が主張される一方で、指標の多さやシステムの複雑さ、マネジャーの情報処理能力など多様な問題によって、マネジャーの部分最適、機会主義的な意思決定行動を引き起こすといった逆機能的側面も示唆されている。このような点について、業績管理システムの運用方法という側面を加味することで、なぜ、どのようにして業績管理システムの逆機能的側面が引き起こされるのか、どのような運用方法により、それは回避、あるいは解消されうるのかについて説明できる。すなわち本研究目的が達成されることによって、先行研究の結果におけるコンセンサスの欠如の原因を示し、業績管理システムの設計上の特徴のみならず、その運用方法を含めた包括的な検討が重要であることを主張する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響により,物品や出版物等の販売・購入の遅れによるものであるため。
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