2022 Fiscal Year Research-status Report
"Theories of Motive" in Organizations
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20K22141
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
樋口 あゆみ 福岡大学, 商学部, 講師 (30882740)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2024-03-31
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Keywords | システム論 / 組織論 / 意思決定 / 時間 / 不定性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はコンテンツ企業のフィールドワークで得たデータから、企画の形成過程を分析することを通じて、(1)個人が企画を着想し、それが組織的な協働へと発展していく過程で語られる理由の変遷と、(2)そうした過程の組織的な解釈・回顧がどのように行われ、それがどのように組織の意味的な境界を動的に生み出しているかを理論的・経験的に明らかにするものである。今年度は、(2)に関わる理論的研究を主に進めた。 (A)なかでも組織の意思決定過程が時間の経過とともにある点に着目し「組織の意思決定形式と時間」の関係として論じた成果を発表した。とりわけ難解で抽象的と捉えられがちなN.ルーマンの意思決定論がなぜ時間の過去・現在・未来と結びつけて論じられているのかを、組織エスノグラフィーの成果を援用しながら、意思決定連関の形式の違いが時間論の違いとして現れる点を明らかにした。これは「組織の意思決定と時間 : 協働のためのタイムマネジメント」 として公開済みである。 (B)また近代的組織論の古典であるH.A.サイモンの意思決定論に対して、ルーマンの意思決定論がどのような点を継承し、また新規性があるのかをルーマンの意思決定にまつわる「不定性」概念を焦点として論じた草稿を作成した。今後学会発表ないし論文化していく予定である。これは経営組織論にとって中核的な問題である、「不確実性」をどのように捉えるかという問題を含む。本稿では不確実性を社会構成主義的に捉え、さらに環境と組織(自己)の区分をオートポイエティックに捉えるとはいかなることかを詳述・敷衍した。これは情報処理的なサイモンの組織論から、意味構成に焦点を当てるルーマンの組織論の差異と新規性を明らかにするものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
組織において企画の意図や目的を提示する語彙が、どのように組織的制度を経由して成立していくのか、というのが当初の研究プログラムの目的であった。とりわけコンテンツ産業においては、当初の意図や目的が、企画の進行過程で発見され直されるという事態が多く見られる。このような事態を単なる理解不足やアドホックさではなく、制度的な推移として捉えるためには、そもそも組織の意思決定過程に対する理論的視角の更新が必要となった。 そのため現在では、当初の目的を超えて、組織の意思決定過程をどのように捉えるかについて、意味構成の観点から構築していく理論的研究へと研究プログラムは拡がっている。とりわけ時間と不定性を意思決定論と結びつけ、かつての情報処理パラダイムからの転換を意味構成として再構成できる道筋を理論的に立てられた点は、大きい収穫だったと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究プログラムの最終年度であるため、引き続き成果をまとめて発表・刊行していくために執筆を中心として活動する。6月下旬の国際社会学会での発表の機会を活かして、この3年間停滞していた海外研究者との研究交流も進めていく予定である。発表するグループは、ソシオサイバネティックスに関心のある研究者が在籍しているため、N.ルーマンの理論に関して、とりわけサイバネティックスの観点から組織論にどのような影響関係があるのかについて理解を深める機会になる。これは理論研究を深めるためにも、またサイモンとの理論の比較のためにも重要な論点になると考えている。 加えて、今年度は新しい研究グループが2つ発足した。ひとつの研究グループでは既に共同研究と発表準備を進めている。今後はこうした共同研究も視野に入れつつ、新しい研究プログラムを立ち上げていく準備の年としたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍において、海外学会への出張がなくなったことによる差額が生じた。少額のため、国内研究会参加への旅費として使用する予定である。
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