2021 Fiscal Year Research-status Report
ポリツァイ概念の転換からみたドイツ社会政策の特性に関する歴史社会学的研究
Project/Area Number |
20K22144
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂井 晃介 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (10880974)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | ポリツァイ / 福祉国家 / 社会国家 / 労働監督制度 / 機能分化論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、労働者保護政策や社会保険制度をはじめとした、19世紀後半のドイツにおける社会政策の形成過程で、世紀初頭に「公共の福祉」全般を包括する語彙から秩序維持に意味が限定されていったと考えられてきた「ポリツァイ」(警察)が理念的・制度的にいかに運用され政策実践に活かされていたのかを、歴史社会学的に明らかにするものである。 2021年度は、1. 本研究が依拠する自己言及的システム理論に基づく歴史社会学についての理論的・方法的研究、2. 「ポリツァイ」の概念史的・制度史的研究、3. 労働者保護政策(労働規制や労災保険法)におけるポリツァイ(警察)制度と労働監督制度の分化プロセスの分析に従事した。1.では、N. Luhmannの機能分化論を踏まえた福祉国家の歴史社会学的研究をさらに発展させるため、政治と学術という二つの制度境界を人々がいかに構想し、それを踏まえたコミュニケーションを行っているのかについての理論的見取り図とその経験的研究のための方法的指針を提示した。2.では、ドイツにおける「ポリツァイ」(警察)が19世紀以後概念的にどのように再編され、制度的にはいかに発展したのかを、概念史研究や警察史研究のレビューによって分析した。3. では、労働者保護政策の一つである工場監督制度(労働監督制度)が1860年前後から形成されていくに伴い、それまで経済活動の規制を担っていた警察が次第にその役割を変化させていったことを明らかにした。その際、警察と労働監督制度は、1880年代に成立する労災保険制度における同業組合との競合関係にあり、経済活動への介入を巡って複数の制度境界が存在することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、研究成果を主に英語で発表することに努めた。その結果国際学会で2件の報告を行うことができ、本研究の前提となる自己言及的システム論や行為や制度についての理論社会学的知見を有した海外の研究者から有益なフィードバックを得ることができた。2021年度はさらに、そうしたフィードバックを踏まえて海外の学会誌に積極的に研究成果を投稿した。しかし本研究は研究伝統が異なる英語圏でその意義を説得的に示すのが難しく、desk reject(3本)や長期間のreviewが続いている状況(3本)であり、結果として2021年度中に業績を出すことができなかった。 以上の理由から、やや遅れているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、やや遅れている研究状況にかんがみ、次のような研究とその発信を行う。 第一に、2021年度にかなわなかった海外調査を実施し、本研究が依拠する理論的・方法的指針の妥当性を再検討するとともに、ドイツ社会政策の歴史的展開についての資料収集・分析を改めて実施する。 第二に、2022年度明らかにした社会国家形成における労働監督制度の成立と警察の役割の関係について、これまでの成果を再度整理し、個々の工場や労働環境をよりミクロに検討する。 第三に、以上のような研究を英語・日本語で学会報告や論文の形式で公開することに努める。
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Causes of Carryover |
当初予定していた海外調査がかなわなかったため、次年度使用額が生じた。ドイツ社会政策の資料調査や理論的・方法的指針についての専門的知見を持つ研究者とのコミュニケーションのために、2022年度使用する予定である。
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Research Products
(4 results)