2020 Fiscal Year Research-status Report
「海外戦没女性」顕彰のジェンダー研究:第一次世界大戦期アメリカの事例から
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20K22161
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
望戸 愛果 筑波大学, 人文社会系, 研究員 (40880282)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | アメリカ合衆国 / 戦争体験 / 歴史社会学 / ジェンダー / 第一次世界大戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、戦争・軍隊とジェンダーに関する先行研究のサーベイ、およびそれらについての理論的な検討という両面から研究を実施した。令和2年度の研究実績の概要は以下の通りである。 第一に、軍隊による女性・マイノリティの動員に関するアメリカの政治・社会学的な先行研究の総覧・整理を行った。 第二に、先行研究の整理・分析から得られた知見をもとに執筆した論文を、戦争社会学研究会の学会誌『戦争社会学研究』へ寄稿した。論文のタイトルは「軍隊の人的資源政策――合理主義、文化主義、構造主義」であり、アメリカ合衆国において行われてきた軍隊の人的資源政策の比較政治・社会学的研究に注目し、合理主義、文化主義、構造主義、という三つの学問潮流から概観・整理したものである。整理を行う際には、ジェンダーの視点からの理論的検討を行い、それぞれの学問潮流の長所と短所を明確化した。同論文は現在印刷中であり、『戦争社会学研究』第5巻に収録され、令和3年6月に出版社より刊行予定である。 第三に、人文書院より訳書『バナナ・ビーチ・軍事基地――国際政治をジェンダーで読み解く』を出版した。原書(Bananas, Beaches and Bases: Making Feminist Sense of International Politics)の著者である政治学者のシンシア・エンローは、1980年代から国際政治や軍隊のジェンダー分析に取り組んできたパイオニアとして知られており、現在アメリカ合衆国マサチューセッツ州のクラーク大学で研究教授を務めている。英語の原書は、イギリスではパンドラ・プレスより1989年に、アメリカではカリフォルニア大学出版局より1990年に、それぞれ初版が出版されている。2014年に新たに出版された第二版は、現時点における最新版であり、訳者としてこの第二版の全訳、索引の作成、および訳者解題の執筆を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの影響により海外渡航が不可であった一方、先行研究の整理と理論的な検討は順調に進んだ。 とりわけ、本研究の初年度中に、先行研究の整理およびそれらについての分析に基づいた学術論文をまとめることができたこと、そして同論文が戦争社会学研究会の学会誌に掲載されることとなったのは、研究を進めるうえでの大きな進展であった。日本ではほとんどなじみのない軍隊の人的資源政策をめぐる政治・社会学的研究の蓄積を三つの学問潮流に基づいて整理し、なおかつ、それぞれの潮流におけるジェンダー分析の位置付けを示すことができた。同論文によって、この分野における研究動向とそこにおける課題を明示することができたと考えている。 令和2年度は、上記「研究実績の概要」欄に記入した内容に加え、アメリカにおける第一次世界大戦「海外戦没女性」についての海外史料調査の準備作業を積極的に行った。また、第一次世界大戦後の女性従軍体験者をめぐる最新の研究状況を調査し、国内でも入手可能な海外文献を可能な限り入手することに務めた。 加えて本年度は、シンシア・エンローの主著『バナナ・ビーチ・軍事基地――国際政治をジェンダーで読み解く』を翻訳・刊行したことと関連して、エンローの著書を中心としたジェンダー研究書についての書評の執筆や、エンローが寄稿した日本の読者へのメッセージの翻訳・紹介といった作業にも積極的に取り組んだ。こうした作業は、日本における「軍隊・戦争とジェンダー」および「軍事化とジェンダー」をめぐる研究の発展にとって重要な意味を持つと考えている。 以上をふまえ、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、第一次世界大戦期アメリカにおける「海外戦没女性」および彼女たちを取り巻く歴史的・社会的文脈に焦点を合わせた調査研究を進める。加えて、前年度に執筆・刊行した論文・訳書に基づく研究報告も行う。その上でこれらの成果を「『戦争体験』のジェンダー化された序列」という研究代表者独自の分析枠組みへと接合し、さらなる研究発展につなげていきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、旅費が使用不可であったため、次年度使用額が生じた。次年度の使用計画としては、感染拡大状況に十分注意しつつ、物品費や旅費等の使用を行っていく予定である。
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Research Products
(4 results)