2020 Fiscal Year Research-status Report
戦後ドイツの教育課程論の史的展開―教育課程を正当化する根拠に注目して―
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20K22200
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Research Institution | Osaka Seikei University |
Principal Investigator |
市川 和也 大阪成蹊大学, 教育学部, 講師 (10880148)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | カリキュラム研究 / 教育課程研究 / 教授学 / ドイツ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、戦後西ドイツおよび再統一ドイツの教育課程研究の歴史について検討するものである。2020年度においては1920年代よりドイツのレーアプラン研究の理論的基盤を構築し、現代ドイツの教育課程研究にも多大な影響をもたらしているE. ヴェーニガーを特に取り上げ、1960年代以降に米国よりカリキュラム研究が輸入される以前のドイツの教育課程研究の到達点と課題を調査した。ヴェーニガーはW. ディルタイに由来する精神科学を教授学と結びつけ、レーアプランをその研究対象とした。ヴェーニガーは1960年代以降の教授学を牽引するクラフキーに影響を与える一方で、アメリカの経験科学的なカリキュラム研究に依拠するロビンゾーンらによって同じく1960年代以降批判されることとなる。このようにヴェーニガーは、60年代以後に生じるドイツの教育課程論の展開の前提をなすものであり、ヴェーニガーがレーアプランをどのような認識枠組のもとで把握したかを検討することによって、精神科学に由来する戦後ドイツの教育課程研究の出発点が明らかとなるといえる。 以上の問題意識のからヴェーニガーのレールプラン理論を検討するために、ヴェーニガーの主著を中心に文献調査を行うとともに、ヴェーニガーが依拠する、W. ディルタイ以後の精神科学とJ. F. ヘルバルト以降の教授学の潮流についても調査を行った。ヴェーニガーの方法に伏流するドイツの精神科学的教育学や教授学を捉えることで、英米のカリキュラム研究とは異なる認識枠組を有するヴェーニガーのドイツの教育課程研究の特色を引き続き明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は教授学と米国カリキュラム研究に影響を受けているドイツの教育課程がどのような根拠をもとに正当化されてきたかという点を、ドイツの教育課程研究の歴史を検討することを通じて明らかにすることを企図していた。そのため、ドイツの教育課程研究の端緒に位置するヴェーニガーの研究アプローチに伏流する認識枠組を明らかにする必要があると考えた。研究調査を行う中で、ディルタイやヘルバルト、さらには新人文主義と国民形成の関係の中で醸成された教育への期待を踏まえて論じる必要があることが分かった。以上からPISA後ドイツの状況を検討するのではなく、まずはヴェーニガーと彼が生きた思想的背景を明らかにすることで、ドイツの教育課程研究におけるドイツ特有の性格を検討することとした。そのため、今年度においてはヴェーニガーを中心に、19世紀ドイツおよび20世紀初頭のドイツ教育学の潮流を整理する基礎研究を行った。そのため、20年度に発表予定であったE.ヴェーニガーのレーアプラン研究に関する論文は21年度に発表することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度においてはこれまで調査を行ったヴェーニガーのレーアプラン研究の特色を検討し、英米のカリキュラム研究とは異なるドイツのレーアプラン研究の理論的基盤を明らかにし、研究成果を発表することを目指す。ヴェーニガーは教授学のアプローチを、教授構造、すなわち授業での出来事の総体を精神科学の手法でもって取り上げることとした。この精神科学の方法において、授業は内在する歴史性を手掛かりとして、世界との連関のなかで把握される。その際にヴェーニガーが研究対象とみなしたのがレーアプランであった。レーアプランは諸勢力(国家、教会、経済、社会、芸術、学問等)による政治的闘争の下で「何が教えられるべきか」が規定される。このようにヴェーニガーは授業の内容を規定するレーアプランを、その形成をめぐる諸勢力の闘争の歴史性に注目し、批判的に捉えることを教授学の課題とした。本研究ではこのヴェーニガーのアプローチに注目し、ディルタイやヘルバルトなど、ドイツの教育学および教授学との連続性のなかでヴェーニガーのレーアプラン研究の特質を明らかにし、英米とは異なる戦後ドイツの教育課程研究が有する理論的基盤の特異性を検討する。本研究の成果は、『大谷大学教職支援センター研究紀要』第13号に投稿する予定である。また、ヴェーニガー以後、ドイツのレーアプラン研究がどのように展開したかという点について、彼のレーアプラン研究に影響を受けたクラフキーを検討し、英米圏のカリキュラム研究とクラフキーの出会いおよび彼のカリキュラム開発を検討する。
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの影響により学会参加に伴う旅費が発生せず、さらに当該年度に必要な研究資料を入手することができたため、残額を次年度分に請求した。次年度においては、必要な研究資料に充当する予定である。
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