2020 Fiscal Year Research-status Report
教育関係者の地域のことばをめぐる議論の分析―明治末から大正期の岩手県を対象に―
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20K22235
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小島 千裕 北海道大学, 教育学研究院, 専門研究員 (60882066)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 発音矯正 / 方言調査 / 教科指導 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、明治末から大正期の岩手県における、教育関係者の地域のことばをめぐる議論を分析することである。その基礎として、研究開始年度の2020年度は、明治40年から大正15年までの『岩手学事彙報』と『岩手教育』について、地域のことばに関する記述を掬い上げる作業を進めた。具体的には、岩手県立教育センター刊行の『岩手県教育史資料』に翻刻された記事の確認、同書に収録された目次を活用しての記事の複写物の取り寄せ、岩手県立図書館と岩手大学図書館での雑誌原本の調査(3/19~3/25)を行った。収集した記事については、記述量の多寡を問わず、記事名等の基本情報をリスト化して整理した。 今年度の作業によって得られた記述を分類すると、おおよそ次のようになる。すなわち、岩手県内の教育会に関する活動の記録、教員個人による地域のことばの調査・研究、東北各県・岩手県内の学校参観報告、国語科を中心とする教科指導における方針である。必ずしも詳細に情報が記されているのではないが、研究対象時期全体にわたって記述が得られた。とくに、シとスの混同のような、教員・児童の発音の実態と矯正の必要性に関する記述が目立った。 『岩手学事彙報』は、明治40年までは月3回の発行、明治41年からは岩手県教育会の機関誌として月2回に、大正7年には月1回の発行となり、大正12年8月に『岩手教育』と改題された。しばしば見られる雑誌全体の記事構成の変化などに留意しながら、作業を継続する必要があると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
主要資料とする教育会雑誌には、論題から内容が推測できる体系的な記述はもとより、数行程度のコラムなど、様々な記事が収められている。本研究を進めるにあたっては、目次を活用した複写物の取り寄せだけでは足りず、雑誌原本を調査し、細部まで詳細に検討することがきわめて重要である。 2020年度は、新型コロナウイルスの感染拡大状況と関わり、原本調査のための出張を計画通りに行うことができなかった。そのため、2020年度に完了予定であった、研究対象時期の『岩手学事彙報』・『岩手教育』における地域のことばに関する記述を掬い上げる作業を終えることができず、やや遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
明治40年から大正15年までの『岩手学事彙報』と『岩手教育』における地域のことばに関する記述を掬い上げる作業を急ぎ、完了を目指す。目次を活用した複写物の取り寄せを行いつつも、できるかぎり雑誌原本の調査のための出張を計画したい。あわせて、岩手県庁保存の行政文書についても、教育会や教員表彰の記録などに関連記述がないかどうか調査する。 こうした作業と並行して、2021年度は、収集した雑誌記事の精読・分析を進める。そして、教員らが地域のことばやその実態をどのように捉えていたのかという「ことばの認識」と、教育現場で問題となる矯正のあり方をめぐってどのような見解を示していたのかという「矯正方針・方策」について、その背後にある動機や葛藤を考慮しつつ明らかにする。 上記の分析に際しては、研究対象時期の特徴は何か、前の時期から継続がみられるのかどうかといった、議論の変遷、さらには、どのように話しことばの統一が進もうとするのか、「国語」形成の実際についても注視したい。よって、明治30年代の状況をも適宜検討しながら進めていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う移動自粛や大学図書館の学外者利用制限などにより、教育会雑誌の原本調査のための出張を計画通りに行うことができなかったことが、最も大きな理由である。 もうひとつは、複写物入手に関わる理由である。出張による原本調査に先行し、目次を活用して雑誌記事の取り寄せを進めたが、作業の途中、主要な複写依頼先において、当該資料が貴重資料に指定された。それにより、通常の電子複写から高額なデジタル複写へと変更になった。金額の確定を含め仕上がりまでに時間を要し、その間、物品費の執行を調整せざるを得なかった。 今後は、社会状況を慎重に判断しながら、調査のための出張を予定したい。また、保留にしていた、図書をはじめとする必要な物品の購入を進めていく。
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