2021 Fiscal Year Research-status Report
日本生まれの「外国人」の継承語教育とオールドカマーの民族教育の接続
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20K22255
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Research Institution | Osaka Seikei University |
Principal Investigator |
薮田 直子 大阪成蹊大学, 教育学部, 講師 (00880105)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | 継承語教育 / ニューカマー / 民族教育 / 地域教室 / ベトナムにルーツをもつ子ども |
Outline of Annual Research Achievements |
現在日本には「外国にルーツを持つ子ども」と呼ばれる子どもたちが学び、暮らしているが、かれらの中には日本で生まれ育った2世以降の子どもたちもいる。 かれら「日本生まれの子どもたち」には、どのような教育や支援が必要だろうか。 カナダやオーストラリアなど移民国家では、移民の子どもたちをCLD(Culturally, Linguistically Diverse Students)と呼び、多言語の可能性を秘めた存在として捉える教育実践が充実している。しかし現在の日本の教育のシステムには「日本生まれの外国にルーツを持つ子ども」の独自性に着目する視点が抜け落ちてしまっている。そこで本研究は「継承語」を手掛かりに、かれらの言語教育を整理することを試みている。継承語は移民の親世代の言語のことで、かれらの学習上の言語能力を支えたり(学習言語獲得)、家庭内でのコミュニケーションの確保、自己アイデンティティの安定など多方面にわたって重要性が指摘されてきた。しかし、日本語を話す日本生まれの子どもたちは、学校や社会生活において「問題がない」とみなされ、かれらの教育課題が見えにくくなってしまっている。 そこで本研究は、地域で15年以上取り組まれている「継承語」教室を事例として取り上げ、質的データを収集している。既に2020年10月から2022年4月までで、計49回の調査を実施した。またこれまでの実践記録を丹念に見ることを通じて、多文化背景をもつ子どもたちにとっての地域言語教育の重要性を探っている。同時になぜこの実践が長年に渡り続いているのかということを解明するために、教室立ち上げ当初の地域スタッフや元公立学校教員に聞き取り調査を実施している。本研究課題の解明によって、日本における継承語教育の具体的な普及を目指すこと、加えて、ニューカマー外国人の適応教育の「その後」を考察することができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年6月から2021年4月までに、質的データ収集のためのフィールドワーク調査(現地での参加型観察調査)を20回実施した。これにより、2020年度の調査を含めると49回のフィールドワーク調査を実施したことになる。これらの質的データは随時フィールドノーツ(観察記録)にまとめ、分析している。 また2022年3月には関東の継承語教育施設、および在日外国人の生活や学習の相談施設(ともに特定非営利活動法人)の2か所を訪問し、見学やスタッフへの聞き取りを行った。これらのデータは、当該実践の比較対象となるものである。 一方で進捗の区分としては「やや遅れている」と言わざるを得ない。2021年度も新型コロナウィルス感染拡大により、計39回の活動が予定されていていながら、実際に活動ができたのは20回のみとなった。とくに年明けの2022年1月から3月は全く活動ができず、観察の調査も実施することができなかった。これらの理由より「やや遅れている」として進捗を報告する。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの2年間で約50回の現地訪問調査を実施できた。2022年は回数を増やすことよりも、収集したデータからスタッフや活動参加者への質問や視点を抽出し、実際に聞き取りなどを行うことで、研究をすすめ、分析のための多角的なデータとすることをめざす。 聞き取り調査については、リモート環境でのインタビューなども具体的に提案し、スタッフや学習者の協力をあおぐ。ただし新型コロナウィルス感染拡大状況下において、これらのデータ収集は調査協力者の健康や安全にもかかわることであるため、十分な感性予防対策を取りながら慎重にすすめる。
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Causes of Carryover |
昨年度と同様に、旅費に関しては、新型コロナウィルス感染拡大を受けて、調査対象となる活動が休止され訪問日が約半分に減ってしまったこと。また学会がオンライン開催となり、出張が不要となり、旅費に係る費用が不必要となったため。 物品費に関しては、2022年度3月に予定していたミニシンポジウムを開催しなかったため大幅に物品費が余ることとなった。 ミニシンポジウムの不開催に関連して、人件費・謝金、その他の費用に関しても、新型コロナウィルス感染拡大の影響により、インタビュー調査が次年度に延期されたことによって繰り越しが発生した。延期された調査については、2022年度に実施可能性を検討し、再調整を行っている。
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