2020 Fiscal Year Research-status Report
Infinite dimensional geometry of Kac-Moody groups and integrable systems
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20K22309
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
森本 真弘 大阪市立大学, 数学研究所, 特別研究員 (60880747)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | path群・ループ群作用 / Kac-Moody対称空間 / Hermann作用 / ヒルベルト空間の固有フレドホルム部分多様体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度では準備として,Kac-Moody群やその精密化概念であるKac-Moody対称空間の幾何学について,無限次元部分多様体論の観点から研究を行った.Kac-Moody対称空間の幾何学において,特にそのイソトロピー表現の軌道の部分多様体幾何学は重要である.Kac-Moody対称空間のイソトロピー表現は,あるヒルベルト空間へのpath群作用により記述することができる.より正確には,Hermann作用とよばれるコンパクト対称空間への超極等長作用から誘導されるpath群作用により記述できる.本path群作用は,定義から固有フレドホルム条件(Palais-Terng 1988)を満たし,故にその軌道はヒルベルト空間の固有フレドホルム部分多様体となる(Terng 1989).報告者は,当path群作用の軌道の主曲率とそのオースティア性について研究を行った.ここでオースティア性とは,主曲率(形作用素の固有値)が(-1)倍で不変であるという条件を指す(Harvey-Lawson 1982). 研究の結果,まずは軌道の主曲率明示公式を与えることに成功した.本主曲率公式ではHermann作用の可換性や軌道の主軌道性は一切仮定されておらず,従ってこれは過去に C.-L.Terng, U.Pinkall, G.Thorbergsson, N.Koike らが計算した結果を含んでおり,一般的な公式として意義があると考える.次に,報告者は軌道のオースティア性について研究し,適切な仮定の下で軌道がオースティア部分多様体となる条件を与えた.本条件によりヒルベルト空間のオースティア部分多様体の具体例を多数得ることが可能となり,これは無限次元微分幾何学の発展に寄与する1つの重要な成果であると考える.本研究成果は国内外の学会で4回発表し,報告集も出版している.現在,その詳細を1つの論文にまとめ執筆中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の計画に従い,Kac-Moody対称空間の幾何学を無限次元部分多様体論の観点から研究した.Kac-Moody対称空間のイソトロピー表現といえる「Hermann作用から誘導されるpath群作用」について,その主曲率公式を導出し,更には軌道がヒルベルト空間のオースティア部分多様体となるための条件を与えた.本主曲率公式は先行研究と比較して最も一般的な設定で導出されており,当分野における重要な進展であると考える.また,軌道がオースティア部分多様体となる条件を明らかにすることは,ヒルベルト空間内のオースティア部分多様体の例を提供するという点で意義があり,オースティア部分多様体に関連する無限次元微分幾何学の発展における1つの重要な進歩であると考える.同時に,ヒルベルト空間の線形性を用いた,コンパクト対称空間内のオースティア部分多様体に関する新たな研究手法を提供しうるとも考えており,今後も更なる研究の進展が期待できる.これらの研究結果は,国内外の学会において計4回発表し,報告集の出版も行っている.ただし,軌道がオースティア部分多様体となる条件を導出する際にいくつか技術的な仮定を設定しており,これを本質的な仮定まで弱めることが必要であると考えている.この点を明らかにした上で,現在執筆中の論文を仕上げ,速やかに投稿を完了させる予定である.また,可積分系理論への応用まではまだ着手できておらず,これは今後の課題であると考えている. 以上を踏まえると,研究が当初の計画以上に進展したとまでは言い難いが,当初の計画では想定できなかった新たな方向性も見えている.また,COVID-19の影響により国内外の出張が困難な中ではあるが,オンラインをできる限り活用しながら研究を着実に進めることができていると考えている.これらを総合的に踏まえ,研究が概ね順調に進展していると認識している.
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Strategy for Future Research Activity |
まずは現在執筆中の論文(Hermann作用から誘導されるpath群作用の軌道の主曲率とオースティア性に関する論文)を仕上げ学術誌への投稿を完了させる.その上で,Kac-Moody対称空間のイソトロピー表現の極小軌道一意性問題について研究を行う.有限次元対称空間の場合,イソトロピー表現の各軌道類の中に極小軌道が唯一つ存在することが知られており(Hirohashi-Tasaki-Song-Takagi 2000),報告者はこれと類似の結果がKac-Moody対称空間の場合でも成立すると予想する.これは,有限次元対称空間とKac-Moody対称空間の類似性を明らかにするという点で極めて重要な問題であると考える.本予想を明らかにした上で一つの論文としてまとめ学術誌に投稿する.その上で,Kac-Moody群論・Kac-Moody対称空間論によるソリトン理論定式化の研究へと進む.ソリトン理論としては柏原-神保-伊達-三輪の理論やTerng-Uhlenbeckの理論が有名であるが,これらは独立に研究されることが多く,相互関係は明らかでない.これらの関係について,上述のKac-Moody群やKac-Moody対称空間の観点から統一的に理解することを目指す.柏原-神保-伊達-三輪の理論を研究する上では,佐藤理論における無限次元グラスマン多様体に注目することが重要であり,これをループ群的に記述した上で,Kac-Moody対称空間の枠組みで再定式化する必要があると考える.Terng-Unhlenbeckらの理論においてもループ群作用と無限次元グラスマン多様体が重要であり,これらを通して両理論の繋がりを明らかにする計画である. COVID-19の影響により国外出張が困難な状況ではあるが,オンラインも活用しながら研究を推進したいと考えている.
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Causes of Carryover |
COVID-19感染拡大の影響により,予定していた国内外の出張が全て取り止めとなったため,次年度使用額が生じた.次年度は,感染拡大状況およびワクチンの接種状況を見ながら,国内を中心に研究討議のための出張を計画したいと考えており,そのための旅費に助成金を充当する計画である.同時に,オンラインでの研究活動も引き続き継続されると考えられるため,そのための研究環境維持や改善にも充てることを計画している.また,本研究は微分幾何学,幾何解析,そして可積分系理論にかけて幅広い研究が多数関連している.今後の研究進展に伴い,より多くの研究関連書籍が必要であると見込んでおり,その購入費にも助成金を充てる計画である.
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Research Products
(10 results)