2020 Fiscal Year Research-status Report
シランカップリング剤によって二酸化チタン表面に固定化された色素分子に関する研究
Project/Area Number |
20K22334
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Research Institution | Fukui University of Technology |
Principal Investigator |
竹下 達哉 福井工業大学, 環境情報学部, 講師 (80881903)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | クレシルバイオレット / シランカップリング剤 / 二酸化チタン / 光触媒 / 色素増感太陽電池 / DFT / TD-DFT |
Outline of Annual Research Achievements |
色素増感太陽電池(DSSC)において、光励起された色素分子から酸化チタン(TiO2)への電子注入は光電変換効率を決定する重要な過程の1つである。TiO2上における色素分子の配向や配列は電子注入効率に関与しており、これらの制御は電子注入効率の低下に起因する色素分子間の会合や電荷再結合を抑制する。本研究では、配向・配列制御のために、シランカップリング剤(SCAs)に着目した。SCAsをTiO2へ表面修飾後、SCAsに色素分子を化学結合させ、色素分子の配向・配列を制御することで、会合体形成や電荷再結合が抑制されると期待される。当該年度は、量子化学計算による4-(triethoxysilyl)butane-1,2-epoxideを含むアルキル鎖が異なる3種のSCAs (OTES)と結合したクレシルバイオレット(CV) の物性予測を検討した。 OTESと共有結合したCV (CV-OTES) の構造最適化より、エポキシ開環反応によって生成する水酸基の酸素原子とCVの芳香環の水素原子との間にCH-O相互作用が存在することが確認された。このCH-O相互作用は、TiO2表面上におけるCV-OTESの立体配座を規制し、結果として、配向・配列に影響を与えると示唆された。紫外可視吸収スペクトル計算および分子軌道計算の結果では、CV-OTESが比較的高い光捕集効率を示すこと、およびCV-OTESからTiO2への電子注入がエネルギー的に可能であることを明らかにした。 CV-OTESからTiO2への電子注入を明確にするために、TiO2クラスターに吸着したCV-OTESの構造最適化と分子軌道計算も実行した。TiO2クラスターに吸着したCV-OTESの最低空軌道はOTESと結合したTiO2に分布していることが確認され、光励起されたCV-OTESからTiO2への電子注入が生じると結論付けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に沿って実行した、量子化学計算によるシランカップリング剤(SCAs)と結合した色素分子の物性評価および色素増感太陽電池(DSSC)の作製と評価に向けた実験室の整備の進捗状況等から上記の理由とした。 量子化学計算に関しては、4-(triethoxysilyl)butane-1,2-epoxideを含むアルキル鎖が異なる3種のSCAsと結合したクレシルバイオレット(CV-OTES)のDFTおよびTD-DFT計算を実行し、学術論文として報告した。構造最適化、分子軌道計算、吸収スペクトル計算等の結果より、CV-OTESからTiO2への電子注入が生じることを明らかにした。現在、アゾベンゼン骨格を含む色素分子も候補として計算を進めている。 実験室の整備については、DSSCの作製および光電変換効率の測定ができる環境が整った。また、湿気に弱いSCAsを取り扱うために、グローブボックスの整備を実施した。 状況に応じて、SCAsと結合させる色素分子の物性評価も実施予定であったが、色素分子の選定のみに留まっている。そのため、SCAsと結合させる色素分子の物性評価に関しては、本年度におけるDSSCの作製および評価と合わせて実施する。
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Strategy for Future Research Activity |
TiO2電極へのSCAsの処理条件を検討するとともに、SCAsと結合した色素分子を含むDSSCの作製および評価を実施する。SCAsは、安価で入手が容易かつ研究課題の達成に適していると考えられる3-Glycidyloxypropyltrimethoxysilane (GPTMS)と[8-(Glycidyloxy)-n-octyl]- trimethoxysilane (GOTMS)を選定する。色素分子は、エポキシ開環反応によって前述のSCAsと共有結合を形成できるクレシルバイオレット(CV)を選定する。また、CVが光増感色素として機能しない場合は、ルテニウム錯体(Ru(bpy)2(phen-5-NH2)(PF6)2)を検討する。 SCAsの処理条件としては、以下を検討する。(i) SCAs溶液の調製に使用する溶媒の選定、(ii) SCAs処理量と処理時間(SCAs溶液へのTiO2電極の浸漬時間)、(iii) TiO2電極へのSCAs処理後の脱水縮合における乾燥時間。(i)においては、SCAsの加水分解の促進と形成したシラノールの安定化のために、pH調整の有無も含める。これら条件を最適化した後、SCAsと色素分子を結合させる際の条件(溶媒、濃度、浸漬時間)も最適化する。 上記の最適化と合わせて、溶液中およびTiO2上における色素分子の吸収スペクトルや反射スペクトル等の物性評価も実施し、SCAs処理に伴う光電変換効率への影響を明らかにする。また、当初予定していた、県の工業技術センターでの装置借用を視野に入れたTiO2表面の分析については、コロナ感染防止対策を講じたうえで借用する。工業技術センターの受け入れが不可能な場合は、本学の装置(蛍光分光光度計や蛍光寿命測定装置等)を用いた物性評価により議論できないか模索する。必要に応じて、実験結果をサポートするために量子化学計算を実行する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、残額が少額で、必要な物品の購入に使用できなかったためである。そのため、次年度使用額と合わせて使用する。 次年度分の助成金は、主に色素増感太陽電池の作製に要する消耗品の購入に使用する。具体的な例としては、導電性ガラス基板、色素分子、シランカップリング材、シランカップリング剤の保管等に必要な乾燥剤、基板洗浄や溶液調製用の溶媒、ガラス器具などである。また、より高い光電変換効率を得るための処理等に使用する試薬の購入にも使用する。 現在使用中の試薬を使い切った際に、その試薬を再購入するにも使用する。
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