2020 Fiscal Year Research-status Report
電子挙動解析を用いた蛍光体の放射線誘起発光メカニズムの解明とその実験による検証
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20K22340
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
平田 悠歩 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 博士研究員 (30881057)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 電子挙動解析 / モンテカルロシミュレーション / 放射線誘起発光 / 粒子線 / 消光現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では電子挙動解析を用いて放射線誘起発光の発光プロセスを解明するためのモデル開発を行っている。電子・重イオン輸送計算コード(PHITS)には、既に電子の挙動を精細に計算する電子飛跡構造解析モードが組み込まれている。しかし、その対象物質は水に限定されており、放射線誘起発光の解析には電子飛跡解析モードの物質拡張が必要である。放射線により発生した電子の相互作用は弾性散乱と非弾性散乱に大別され、それぞれ物質ごとに固有な反応断面積を持つ。これらの反応断面積をPHITSに組み込むことで電子飛跡構造解析モードの物質拡張が可能となる。本年度は、電子挙動解析モードの物質拡張に向けて、固体物質における電子の反応断面積を整備しPHITSへ実装した。まず、計算手法を検証するため電子の挙動について参考となる実験値が報告されているSiについて電子挙動解析モードの物質拡張を行った。非弾性散乱断面積は光の反射率などから得られる光学的誘電関数を用いて計算し、弾性散乱断面積は物質の電子数密度のみに依存することが予測されるため、水における弾性散乱断面積に電子密度の補正を行いSiに応用した。これらの反応断面積をPHITSに組み込み、電子飛跡構造解析モードによりSiにおける入射電子の飛程と付与エネルギー分布を複数の入射エネルギー電子について計算した。今回開発したPHITSによる電子飛跡構造解析モードの結果が実験値やそのほかの文献値と一致することを確認した。 また、電子挙動解析により開発する発光プロセスモデルを検証するため、重粒子線治療装置(HIMAC)においてCaF2:EuやZnS:Agなどの代表的なシンチレーターに対して炭素線照射実験を行い、消光現象などの蛍光体の粒子線に対する応答を測定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は全体として計画通りに進んでいる。今年度は蛍光体の発光メカニズム解析に必要な電子飛跡構造解析モードの計算手法を評価するため、蛍光体ではなくSiに対する電子期飛跡構造解析モードを開発した。蛍光体に対する電子飛跡構造解析モードについても断面積の整備に必要となる光学的誘電関数はCaF2やZnSなどの代表的な放射線誘起蛍光体についても調査済みであり、整備した断面積のPHITSへの組み込み手順もSiと同様に行うことができる。また、実験検証に用いる消光現象などの蛍光体の放射線特性も測定することができており、電子飛跡構造解析計算による蛍光体の発光プロセス解析の準備が整っている。
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Strategy for Future Research Activity |
放射線誘起蛍光体の発光プロセスを解明するため、今年度開発したPHITSの電子飛跡構造解析モードを利用して蛍光体の放射線応答を再現する。γ線のエネルギーと蛍光体の発光量の比例関係が崩れるノンプロポーショナリティや粒子線照射時に発生する消光現象は、放射線により発生した二次電子から発光への変換過程におけるエネルギー損失に由来する。これらの現象は蛍光体の発光プロセスに依存しており、理論的にこれらの現象を再現できれば発光プロセスの解明につながる。そこで、電子飛跡構造解析モードにより放射線のエネルギーが二次電子を通じて蛍光体に吸収されるまでの電子挙動を細かく追跡し、ノンプロポーショナリティや消光現象の発生を理論的に再現する。 今年度開発した電子飛跡構造解析モードを蛍光体素子に応用する。また、消光現象の再現には粒子線による二次電子の発生を模擬する必要があるため、粒子線に対しても飛跡構造解析計算を行えるよう改良する。そして、電子飛跡構造解析モードにより計算した電子挙動から、入射した放射線が発光に至るまでの発光プロセスモデルを開発する。また、今年度に引き続きHIMACにおける実験やγ線照射実験により消光現象などの蛍光体応答を測定する。実験や文献調査により得られたノンプロポーショナリティや消光現象を計算により再現することで開発した発光プロセスモデルを検証する。
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Causes of Carryover |
当初計画で令和2年度に予定していた、実験や学会参加等に係る出張が新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて実施できなかったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は令和3年度分経費と合わせて、令和3年度に予定している実験において、より詳細な結果を得るため、蛍光体の発光測定で用いる蛍光体材料、光学フィルター、光ファイバー、分光器、標準光源等の購入費用やHIMAC実験等を行うための旅費及び論文投稿料として使用する。
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