2020 Fiscal Year Research-status Report
素粒子理論に基づく初期宇宙の熱的進化および重力波の研究
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20K22344
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山田 將樹 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (20871106)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | インフレーション / 重力波 / ダークマター / バリオン数の生成 / ブラックホール |
Outline of Annual Research Achievements |
宇宙初期のインフレーション後からビッグバン元素合成の時期の間に宇宙がどのような発展をしたのか、さらに暗黒物質の性質およびその生成機構を明らかにするための研究を行った。特に本年度は重要な実験結果が公表された年になり、それに関する理論的な研究も行った。
暗黒物質直接探査実験であるXENON1T実験のグループは電子反跳事象の超過を報告していた。これはアクシオンダークマターの吸収によるものである可能性が議論されていたが、我々はそのアクシオンが初期宇宙のインフレーションをも引き起こしていた可能性を指摘した。この二つの現象を一つのアクシオンで実現するためにはそのパラメーターにある非自明な関係が成り立っていることが必要であったが、XENON1T実験の結果はまさにその関係を満たしていることを明らかにした。
NANOGravによるパルサータイミング実験のデータが重力波のようなシグナルを示唆していることから、それが初期宇宙における相転移のダイナミクスにおいて放射されたものであるとしたときにどのような示唆が得られるのか、という研究を行った。実験データによると比較的低いエネルギースケールで起きていると考えられることから、相転移が我々のセクターとは別のセクターで起きていなければビッグバン元素合成の理論と矛盾してしまう可能性がある。その時、相転移を引き起こしたエネルギーが我々のセクターとは別のセクターで現在まで残っていると考えられる。我々はその残りのエネルギーによる宇宙背景放射の温度揺らぎに対する影響を明らかにし、それがH0 tensionと呼ばれるアノマリーと関連していることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は応募当初に計画していたものに加えて、より重要な研究成果も得ることができた。特にXENON1TやNANOGravなどの重要な実験結果が公表されたため、それらの結果から示唆される宇宙論を明らかにする研究を行った。これらの研究成果は将来的にアップグレードされる実験等によって検証が可能であり、今後の実験の結果が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
宇宙の歴史の中でバリオン数の非対称性がどのようにして形成されたのかという未解決の問題がある。一方でニュートリノ振動の観測から右巻きニュートリノの存在が示唆されており、この右巻きニュートリノの相互作用を通して初期宇宙においてバリオン数の非対称性を作り出すことができると考えられている。この機構が一般的な初期条件の元であればどのような変更を受けるのかという研究を行う。また、宇宙の熱化の過程を通してダークマターが非熱的に生成される機構についての定量的な研究を行う。また、アクシオンと呼ばれる仮想的な新粒子が初期宇宙論のダイナミクスにどのように影響を与えるかを明らかにする。さらに数値計算を通して初期宇宙のダイナミクスから放射される重力波のスペクトルの計算を行う。これらの研究を通して初期宇宙の熱史を明らかにし、またその検証方法を提案していく。
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Causes of Carryover |
2020年に発生した世界的なパンデミックにより、海外はもとより国内であっても移動が強く制限された。これにより、研究打ち合わせ及び国際国内会議への参加を見合わせる必要があり、そのため予定していた旅費の分だけ次年度に繰り越すことになった。次年度においては、この費用と予定していた費用を合算し、人件費及び物品費に当てる。
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Research Products
(5 results)