2020 Fiscal Year Research-status Report
偏極陽子標的を用いた重陽子-陽子散乱による三体核力研究
Project/Area Number |
20K22345
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
渡邉 跡武 東北大学, 理学研究科, 特任助教 (10882011)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 三体力 / 核力 / 少数核子系散乱 / 偏極標的 |
Outline of Annual Research Achievements |
核力から原子核の諸性質の理解のためには、三つの核子間相互作用である三体核力の寄与が不可欠であることが明らかになっている。この三体核力の性質を詳細に調べるプローブとしては、少数核子系散乱が挙げられる。散乱実験で得られた高精度データと、厳密理論計算との比較から、三体核力に関する定量的議論が可能である。本研究では、偏極陽子標的を用いた重陽子-陽子散乱によるスピン相関係数の高精度測定によって、三体核力のスピン依存性に関する新たな知見を得ることを目指す。そのためにまず、実験に適した偏極陽子標的の開発を行う。令和二年度では、散乱実験のために上下左右共に広い散乱角度領域を持つ標的チェンバーおよび電磁石の開発を行った。これらの開発は、理化学研究所において多数の偏極陽子標的開発および同標的を用いた散乱実験実績がある研究員と協力し遂行した。標的チェンバーは、偏極陽子標的として用いるナフタレンを冷却するための冷却槽と、その外側の真空引きのための真空槽の二重構造とした。電磁石は上下方向の広い散乱角度領域を得るために磁極間距離を大きくし、かつ十分な静磁場の均一性(標的部で0.1%以下)が得られるよう磁極の形状を工夫した。標的チェンバーおよび電磁石は令和二年度に製作が完了しており、偏極標的開発に向けての準備が進んだ。次年度では、標的用のナフタレン結晶の製作および動的核偏極システムの構築を行い、本研究で開発した装置を用いての偏極生成テストを行っていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
理化学研究所の研究員の協力を受け、偏極陽子標的に必要な装置の仕様を精査し、製作するにまで至ることができた。偏極生成のために必要なレーザおよび偏極度測定のための装置の修理が必要だったこともあり、まだ偏極生成を行うことはできていないが、それらの修理もすでに完了している。令和三年度前期には実際に開発した装置での偏極生成テストを行うことを予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
偏極陽子標的に必要な装置は全て揃っており、令和三年度ではそれらの装置を用いた偏極標的システムの立ち上げをまず行っていく。しかし、実際に散乱実験を行う前に、偏極陽子標的を実際にビームに照射した場合の偏極度への影響を評価する必要がある。そこで、偏極標的立ち上げ後は東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターまたは放射線医学総合研究所重イオン加速器施設において偏極標的への照射実験を行う。この照射実験の結果を鑑みて、本実験の実施予定について精査していく。
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Causes of Carryover |
偏極陽子標的に不可欠な標的チェンバーおよび電磁石の開発後、標的用のナフタレン結晶製作および偏極生成システムに必要な物品の購入を推進していく予定だったが、COVID-19の影響下により業者との設計・製作に関する協議があまり円滑に進まなかった。故に、チェンバーおよび電磁石の製作が当該年度末になってしまったため、直接経費の使用額が予定より少なくなった。次年度では当初の予定通りの物品を購入し、研究を遂行していくため、次年度に当該年度で使用できなかった分を上乗せする必要がある。
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