2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of the large-scale silicon tracker for precision measurement of Higgs boson properties at HL-LHC
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20K22346
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
廣瀬 茂輝 筑波大学, 数理物質系, 助教 (40875473)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 素粒子実験 / シリコン検出器 / ヒッグスの物理 / タウレプトン |
Outline of Annual Research Achievements |
ITK検出器用シリコンストリップセンサーは、2021年度より20,000枚以上が量産され、日本グループはそのうち約6,000枚の品質検査および、約40枚に1枚の割合で陽子照射をし、バルク損傷を受けたセンサーの基礎特性の監視を行う。本年度は、ITK検出器での要求基準を念頭に大量のセンサーの性能を判定し、不良品を確実に特定して除外するための、品質保証システムを構築した。特に陽子ビーム照射により放射線損傷を受けたセンサーは、温度など外部環境に敏感であるため、可能な限り自動化することで測定条件が変化を防いだ。また、測定者による手作業が必要な部分については、その手順を厳密に策定した。本システムを用い、2020年に生産された初期量 産品約318枚と陽子照射サンプル23枚を測定し、実機用シリコンストリップセンサーの性能が十分、かつ生産時期に依らず安定していることを確認した。研究代表者が中心となって完成させたストリップセンサー品質保証スキームは、ATLAS実験ITK製作プロジェクト内でも承認された。 ITK検出器の安定稼働には、現在ATLAS実験で運用されている装置から得られる知見が欠かせない。研究代表者は、2017年よりATLASシリコンストリップ検出器(SCT)の運転を主導してきた知見をもとに、SCTを使って得られたデータを詳細に解析することで、放射線損傷の飛跡検出器の性能への影響を調べた。本研究を通じ、完全空乏化電圧の推移が、当初の期待より高くなっていることがわかってきている。このような、現在のSCTデータから得られる情報から、今後ITK用シリコンセンサーの放射線特性をより詳細に理解していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、当初の研究計画の通り、シリコンストリップセンサーの品質保証システムを完成させ、10月に東北大学において実施した陽子照射試験を含め、初期量産品を用いた性能実証および品質保証スキームの妥当性を示した。ITK検出器の研究開発は全世界の研究機関と共同で行っているが、研究代表者の研究は他研究機関をリードしている。例えば、陽子照射後のストリップ間抵抗測定は-20度の環境下で行うが、時間短縮のために急激に冷却すると電流値が不安定になるなど、今後の品質保証戦略において重要な知見も得た。これは、短期間に大量の測定を行う必要があるフェーズに入り、初めてわかったことである。COVID-19の影響は無視できないものの、他研究機関との議論は元よりリモート会議が主体であったことに加え、本研究も7月以降は、実験施設における人員数などを管理しながら、必要な作業を実施可能な状況となっており、本年度の遅れは最小限に留められた。
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Strategy for Future Research Activity |
ITKシリコンストリップセンサーの品質保証スキームはほぼ完成したが、今後約4年間にわたって測定を進めていくことになることを踏まえ、より測定者による測定手順のばらつきや操作ミスに対して、センサーの破損を防ぎ、信頼度の高い測定結果を得るための保護機構を考える必要がある。例えば、測定環境が-20度になるまでセンサーに対するバイアス電圧印加を禁止する、といったようなものである。これは、シリコンセンサーの品質保証をより迅速かつ確実に進めることだけでなく、コントロールされた環境下での高品質なデータを取得することで、大量のシリコンセンサーの特性や放射線損傷を系統的に評価することが可能となり、シリコン検出器開発そのものの観点からも有用である。 一方で、本年度は高輝度LHCに向けた、タウの物理に関する研究に力を入れる。現行ATLASシリコン検出器に比べ、ITK検出器はアクセプタンスが広がり、物理事象の再構成効率は確実に向上する。それに加え、例えばITK検出器外層での荷電粒子のヒットパターンなど、現行手法よりも詳細な検出器応答を利用し、タウレプトン崩壊に由来する荷電ハドロンの運動学的特徴を抽出することで、特に高運動量タウプレトンの同定効率を向上できる可能性がある。既に開発されている高輝度LHC-ATLAS実験用シミュレーションソフトウェアを利用し、まずはシリコン検出器応答を利用したタウレプトン同定効率向上を目指す。また、研究代表者がこれまでに得たシリコンストリップセンサーの、特に放射線損傷を受けた後の特性変化に関する知見をもとに、シミュレーターをより現実的なものに改良し、タウレプトン同定効率にどのような影響が出るかを評価する。
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Causes of Carryover |
本年度、シリコンセンサー品質保証スキームをほぼ完成させたが、安定した測定を実現するための手法の検討に時間を要し、今後の長期的な測定において測定の安全性や信頼性を担保するのに必要な保護機構のうち、大部分が未完成となった。そこで、次年度上半期に、バイアス電源への保護装置の取り付けや温度モニターなどを取り付け、7月以降のシリコンセンサー量産に備えることとした。シリコンセンサー品質保証を行う他国研究機関の研究者らとは、当初リモート会議ベースでの議論に加えて、年に2回CERN研究所において実物を用いながらより詳細な議論や調整を行う予定であった。そのため、研究代表者が日本で行う研究に関してはおおむね問題なく進んだもののの、COVID-19の影響でCERN研究所での対面での打ち合わせができなくなったことから、詳細な調整を十分に行うことができていない。次年度中に状況が改善された場合、遅れた部分の議論を集中的に行う必要があるため、本年度使用できなかった旅費等の必要性が上がると見込んでいる。
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