2020 Fiscal Year Research-status Report
地球深部マグマの物性の理解へ向けたケイ酸塩ガラスの高温高圧その場物性測定
Project/Area Number |
20K22369
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
大平 格 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 研究員 (90873159)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | ガラス / 高圧その場実験 / 弾性波速度 / 二体分布関数解析 / 放射光X線 / 地球深部マグマ |
Outline of Annual Research Achievements |
地球内部の410km及び660km不連続面付近には、周囲より地震波速度の遅い低速度領域が存在し、そこでは固体マントルよりも高密度なマグマが存在している可能性がある。しかし、その存在を検証する上で必要となるマグマの弾性波速度と密度については、マグマそのものはおろか、その構造・物性を凍結したアナログ物質であるケイ酸塩ガラスにおいても十分に研究されていない。本研究では、深さ660kmの圧力(23万気圧)を上回る高圧その場条件で、超音波法による弾性波速度測定とX線トモグラフィー法による密度測定を行う。これらの実験から、高圧下におけるガラス物性の温度依存性・組成依存性を明らかにし、地球深部に滞留可能なマグマの温度・組成条件に制約を与えることが目的となる。 本年度は、複数のアルミニウムを含む酸化ガラスについて弾性波速度測定を実施した。放射光施設・SPring-8のBL04B1ビームライン設置のマルチアンビルプレスに超音波速度測定セルを導入することで、常圧から24万気圧の高圧その場条件下で、ガラス試料の縦波速度および横波速度の両方を決定することに成功した。この実験から、高圧下におけるガラス物性に対するアルミニウムの影響に関する新しい知見を得ることができた。また2020年度所属の愛媛大学において、新たにレーザ加熱式浮遊炉を設置することができた。この浮遊炉は、従来のるつぼと電気炉を利用した急冷法と比較し、ガラス形成能の低い組成の融体であってもガラス化させることができる。この装置を今後活用していくことで、より広い組成範囲でガラス物性の組成依存性を研究することが可能となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナウイルスが流行している昨今の状況下において、学外の実験施設の利用を前提とする本課題の推進には大きな困難な生じることが予期された。しかしながら、2020年の夏季からSPring-8の利用が再開されたこともあり、弾性波速度測定に関しては、複数組成の試料について十分な実験データを取得することができた。一方で、アメリカの放射光施設APSの13-BMDビームラインで実施する予定であったX線トモグラフィー法による密度測定については、海外への渡航制限のため、実験を進めることができなかった。そのような状況の中、APSの別のビームラインである16-BMBビームラインにおいて、非晶質物質の高圧その場X線回折(XRD)のリモート実験が可能となった。そこで新しい課題として、既に弾性波速度を決定した試料のXRD測定を行い、高圧その場での構造情報(二体分布関数)の取得を試みることにした。この課題のプロポーザルは受理され、2021年4月に16-BMBでリモート実験を行った。この実験では、酸化ガラスの中距離構造が急激に変化する常圧~10万気圧の高圧その場条件で試料の構造因子を取得することができた。現在は得られた構造データを用い二体分布関数解析に取り組んでいる。結果から、高圧におけるガラスの物性変化に対し、構造の観点からも理解を進めることができると期待される。 上述の通り、密度測定実験は実施することができなかったものの、弾性波速度測定は順調に実施でき、また16-BMBにおける代替実験で構造データを取得できたことから、本課題は総合的にはおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
APSで滞在型実験を行うことは、最終年度も引き続き困難であると予測される。したがって、国内で行うことのできるSPring-8・BL04B1での弾性波速度測定や、リモートアクセスで実験を遂行できるAPS・16-BMBのX線回折測定(二体分布関数解析)に注力したいと考えている。 本課題では、高圧下におけるガラス物性の温度依存性と組成依存性を明らかにすることを目的としているが、試験的な高温実験の結果から、少なくとも本課題で用いる手法で発生可能な温度圧力の範囲では、温度依存性は明瞭に観察されない可能性がある。一方で、初年度の弾性波速度測定の結果から明らかとなったように、ガラスの弾性波速度の増加挙動は組成によって著しく変化する。そこで最終年度では、上述のレーザ加熱式浮遊炉で様々なガラスの合成を合成し、高圧ガラスの構造物性変化に対する組成依存性をより詳細に研究することを計画している。
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