2020 Fiscal Year Research-status Report
木星磁気圏における粒子加速の解明に向けたX線放射モデルの構築
Project/Area Number |
20K22375
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
沼澤 正樹 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 特別研究員 (10880437)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 木星 / X線天文学 / 惑星磁気圏 / 粒子加速 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、木星X線の理論的な放射モデルを構築し、木星磁気圏における粒子加速の理解へとつなげることである。木星の放射線帯には高エネルギー (数十 MeV) 電子が存在する。太陽風や衛星イオの火山に由来するプラズマ粒子が起源とされるが、その正確な加速機構は未解明である。木星X線は、この粒子加速過程において「加速の前段階」にあるプラズマ粒子と「加速の到達点」ともいえる高エネルギー電子の情報を一度に取得できる強力な手段となりうる。複数観測機による観測と、太陽風や磁気圏粒子分布と組み合わせて議論し、粒子の経路や分布に紐づく理論的なX線放射モデルを構築し、磁気圏の粒子加速研究における新手段の確立を目指す。 本年度は、「すざく」衛星による木星観測の全データを解析した結果について、国際会議を含む国内外の学会にて発表した。本成果は、「すざく」観測データに基づき 2006 年から 2014 年にかけての長期的な変動を調査したもので、木星本体からのX線放射 (オーロラでの電荷交換反応輝線、大気表面での太陽X線散乱) が 2-5 倍と大きく変動したのに対し、木星磁気圏に広がった硬X線放射に優位な変動が見られなかった。さらにこの広がった放射について、木星磁気圏の粒子分布モデル (Divine-Garrett モデル) から理論的に見積もった放射強度と比較し、モデルが粒子密度を 10-100 倍程度過小評価している可能性を指摘した。これは電波による観測からの示唆と同様の傾向にあり、今回がX線観測による初めての示唆となった。以上の成果は投稿論文としてまとめ、本報告書の作成時点において PASJ 誌から出版が決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究で予定している、欧州のX線天文衛星 XMM-Newton のデータ解析にやや遅れが生じている。本年度、「すざく」データの解析については完了しており、学会参加から投稿論文出版まで一通りの成果発表を行った。これと XMM-Newton のデータを比較して議論を行うことが本研究の目的の一つであり、来年度前半には XMM-Newton データの解析を完了させる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度はまず前半に、木星の磁気圏に広がった硬X線放射の観点から XMM-Newton による木星のデータ (20 年にわたる累計観測時間 ~1 Ms) を解析する。「すざく」データを用いて申請者自身が見出した、一定強度以上で常に存在するという示唆に基づき、複数の観測を積分し検出感度を上げることで、「すざく」と独立した観測機による初めての検証となる。 本報告書作成時点において XRISM 衛星の打ち上げは今年度後半に予定されているため、本計画中に成果を出すことが難しくなる可能性がある。XRISM のデータ解析の目的は、オーロラでの電荷交換反応輝線から太陽風もしくはイオプラズマトーラスに含まれるイオンの組成などを調べることである。これらイオンは広がった硬X線放射を生み出すと思われる高エネルギー粒子にとって、「加速の前段階」の情報を持つと考える。もし XRISM データの解析が遅れた場合は、XMM-Newton のデータを用いてオーロラの情報を調べる。XRISM に比べてエネルギー分解能は 1 桁以上劣るが、統計量や時間変動情報の点で利点もある。 いずれにしても、来年度後半では、太陽風モデルや粒子分布モデルと組み合わせた議論をもとに、木星オーロラからの放射と磁気圏からの広がった放射について体系的な描像を得ようとする計画に変更はない。
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Causes of Carryover |
当初の計画どおり来年度にラップトップパソコン (約 50 万円) を購入することを想定して繰り越した。その他、論文出版・掲載 (20-30 万円) やタブレット端末の購入 (20 万円) を計画している他、共同研究者との打ち合わせのための出張旅費、学会年会費・参加費に充てる予定であり、請求額は妥当と考える。
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