2020 Fiscal Year Research-status Report
界面活性剤の吸着・脱離・粘弾性を考慮した液膜形成・崩壊のAMR法による数値解析
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20K22388
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
松下 真太郎 東京工業大学, 工学院, 助教 (20883036)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 弱圧縮性気液二相流計算 / AMR法の複数GPU化 / 動的負荷分散 / 運動量保存スキーム / 界面捕獲手法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,界面活性剤の吸着・脱離と液相の粘弾性を考慮した高解像度気液二相流計算によって,液膜安定化・崩壊においてマランゴニ効果および粘弾性がどのように流動と相互作用するのかを明らかにすることを目的としている.2020年度は,当初の計画通り(1)運動量保存性を担保した気液二相流計算手法のAMRコード実装,(2)界面捕獲手法の一種であるVOF法で問題となる界面の過剰な拡散の改善,(3)界面に適合するAMR法に対して,動的領域分割法を用いた複数GPU実装の3つを完了させ,計算手法の改良・大規模計算実行への準備を完了させた. (1)については,既往の非保存系方程式を解く場合に生じ得る数値的Kelvin-Helmholtz不安定性を防ぐことができ,実問題として曲がり管から流出するオイルジェット計算を計算して実験と比較することで,実用的な問題に対して高精度に界面挙動を捉えることが可能であることを示した.オイルジェット計算の成果は2020年日本流体力学会年会,国際会議WCCM2020にて発表した. (2)については,2次元ダム崩壊問題に対してSTAA法を適用することで,界面拡散抑制が可能である結果を得ており,流束計算に適切に組み込むことで,保存系Allen-Cahn方程式の適用も可能であることを確認している. (3)については,モートンカーブを用いた空間充填曲線による動的領域分割法を適用した複数GPUコードを開発し,並列性能を計測した結果,本ソルバーにおいてはプロセス間通信量の偏りによる性能低下がほとんど観測されなかったため,モートンカーブによる負荷分散を採用している.AMR法の複数GPU化については,第34回数値計算力学シンポジウムにて発表済みである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定であった運動量保存性を担保した弱圧縮性気液二相流計算手法のAMR法実装はすでに完了しており,曲がり管から放出されるオイルジェット流れの計算が実験で観測された界面形状をよく再現できることが確かめられている.オイルジェット計算の結果は,本計算コードがベンチマーク問題だけでなく,格子にそぐわない物体を考慮した実問題レベルの計算が可能であることを意味する. 界面捕獲手法の改良については,2次元ダム崩壊問題にて検証し,数理モデル上で界面の拡散を防ぐことができる保存形Allen-Cahn方程式の適用に加えて.人工的な操作で強制的に拡散界面を抑制するSTAA法という2段構えの対策法を選択的に導入できるようになっている. AMR法の複数GPU実装については,実装コストが非常に重く,計画段階より大幅に時間を費やすこととなったものの,実装自体は完了させることができた.しかし,当初の予定であったMPFを用いた動的負荷分散の必要性が薄いと判断できる並列性能結果が得られたため,モートンカーブによる空間充填曲線に基づいた動的負荷分散実装にとどまっている. 以上の結果からおおむね当初の計画通り研究が進んでいるが,成果発表が学会発表にとどまっている部分が多く,論文化が遅れているため,おおむね順調とした.
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に導入した運動量保存性を担保した気液二相流計算手法に対し,界面活性剤の吸着・脱離を考慮した濃度輸送方程式を導入し,Validationを行う. f-FENE-Pモデルにおける粘弾性の濃度パラメータと界面活性剤の濃度の関係について最新の文献を調査し,適切なカップリングモデルを検討する.それらのモデルを弱圧縮性気液二相流計算手法に導入し,実験・理論等との比較を行うことで数値計算が正しくモデル化できているか簡単な系で検証する. 検証後,複数GPU実装済みのAMRコードに導入し,大規模計算を実行することで,モデルパラメータが液膜安定化・崩壊に与える影響を調べ,考察する. f-FENE-Pモデルと界面活性剤輸送モデルのカップリングが困難であった場合には,FENE-CRモデル,FENE-Pモデル等の粘弾性流体モデルと界面活性剤輸送モデルを複合させた計算モデルで計算し,粘弾性および界面活性剤のモデルパラメータが液膜安定化・崩壊に与える影響を調べる.
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染拡大防止のために,国内外の学会が延期・オンライン開催等となり,2020年度の旅費としての支出がゼロとなった.それに伴い,研究費使用計画の変更を余儀なくされ,当初の予定より物品購入に多くの費用を割り当てる変更を行った.大規模データの可視化には多くのメモリや記憶媒体が必要となるため,そのための物品購入を行った.また,複数GPUの導入に伴う計算コードのデバッグに難航し,サーバーレベルでの検証実行が主であったため,TSUBAME使用料として計上していた支出項目も物品に回すこととした.以上の変更から,当初予定していた金額から若干の差異が生じた. 2021年度は東工大スパコンTSUBAMEの使用料に予算を割り当て,粘弾性モデルの検証計算・複数GPUを用いた大規模計算を実施する.新型コロナ感染拡大防止のため,引き続き学会等のオンライン開催が見込まれるため,旅費として使用予定であった額については,不足していた場合TSUBAME使用料に,そうでない場合は大規模計算結果可視化専用PC等の物品購入費用に割り当てる予定である.
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