2020 Fiscal Year Research-status Report
熱的安定性を有する高温超電導コイルを用いた鉄道用非接触給電システムの研究
Project/Area Number |
20K22414
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
井上 良太 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (80881127)
|
Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
Keywords | 非接触給電システム / 高温超電導コイル / 交流損失 / 熱的安定性 / 鉄道 / 冷却システム |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,温室効果ガスの削減と鉄道運転の安全性確保の観点から,鉄道用非接触給電システムのニーズが高まっている。しかし,非接触給電システムに銅コイルを用いた場合,コイルでの発熱から急速・大電力伝送が制限される欠点があった。そこでこれまでに,「急速・大容量かつ高効率伝送可能な鉄道用非接触給電システムを実現すること」を目標として,高温超電導(以下,HTS)コイルを用いた非接触給電システムに着目し,HTSコイルの低損失化や非接触給電システムの電力伝送特性について実験と数値解析の両面から検討してきた。しかし,これまでの検討の中で,1 kHz以上の高周波電流を通電する際に,臨界電流値(直流通電において0Ωとなる電流値)以下においても,突然にHTS線材が焼損する現象が発生した。これは,HTS線材の交流応用で一般的に用いられる商用周波数では,確認されない現象であるため,その原因および対策について明確にする必要がある。そこで,本課題では,焼損の原因およびその対策方法を明確し,これまで実現できなかった熱的に安定な鉄道用非接触給電システムにおける基礎技術の確立を目標としている。本年度においては,有限要素法を用いた電磁界解析および伝熱解析によって,液体窒素冷却下におけるHTSコイルの臨界電流の周波数依存性を明らかにした上で,kHz帯におけるHTSコイルの発熱と冷媒間の伝熱特性が鉄道用非接触給電システムの運転条件に与える影響について検討した。その結果,HTSコイルの臨界電流値は,周波数の増加と共に減少することがわかった。これは,周波数の上昇と共にHTSコイルの交流損失が増加し,HTS線材の表面温度が上昇するためと考えられる。以上より,HTSコイルを用いた鉄道用非接触給電システムを熱的に安定動作させるためには,2 kHz周辺の低周波領域において,低電流通電が求められることが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標であった,①有限要素法を用いた数値解析により,kHz帯のHTS線材およびHTSコイルにおける臨界電流値の周波数依存性の明確化,②kHz帯におけるHTSコイルの発熱と冷媒間の伝熱特性が鉄道用非接触給電システムの運転条件に与える影響の明確化を達成している。これらの結果より,kHz帯以上の高周波電流通電時によるHTSコイルの焼損の原因を明確にすることができた。なお,本年度の研究成果は,学術論文および国際会議,国内学会において報告している。以上より,本年度の進展はおおむね順調であったと評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
現状のHTSコイルを熱的に安定な状態で動作させるためには,車両側および地上側に複数のHTSコイルを並列に設置する必要があり,冷却システムが大型化する問題が明らかとなった。そのため,HTSコイル1台あたりに送電可能な電力密度を向上させる必要がある。そこで,今後は,HTS線材の細線化および並列化に着目し,高エネルギー密度化かつ低損失化なコイル構造を明らかにした上で,数kW級のモデルシステムを構築することで熱的に安定動作が可能な大容量非接触給電システムの検証実験を行う予定である。
|
Causes of Carryover |
実験を効率的に進めるために解析用計算機を購入し,解析を中心に遂行したため,次年度使用額が生じた。次年度に繰り越した予算は,HTSコイルを用いた数kW級のモデルシステムの構築に使用する予定である。
|
Research Products
(3 results)