2020 Fiscal Year Research-status Report
アクリルプラスチック光ファイバ中のブリルアン散乱の観測と特性解明および工学応用
Project/Area Number |
20K22417
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Research Institution | Shibaura Institute of Technology |
Principal Investigator |
李 ひよん 芝浦工業大学, 工学部, 助教 (30870787)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 光ファイバセンサ / ブリルアン散乱 / プラスチック光ファイバ / 防災技術 / 非線形現象 / テーパー加工 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、極めて安価で、世の中ですでに広く使われており、製造技術も成熟している一般的なアクリルプラスチック光ファイバ(POF)中のブリルアン散乱の世界初観測および特性解明を進めている。最終的には、アクリルPOF中のブリルアン散乱を用いた高性能分布センシングシステムを実現したいと考えている。令和2年度は、(1) 通信波長帯でアクリルPOF中のブリルアン散乱を観測する実験系の構築、(2) 特殊アクリルPOFの調達とブリルアン散乱観測の試行、(3) アクリルPOFの新規テーパー加工法の提案、を推進した。以下、詳細を記す。 (1)(2) 手持ちの装置を用いて、通信波長帯でアクリルPOF中のブリルアン散乱を観測する実験系を構築した。散乱光に対して、狭線幅光フィルタを用いてレイリー散乱成分を除去し、光増幅器で増幅し、さらに雑音を広域フィルタで除去するなど、これまでに培った数々のノウハウを詰め込んだ。また、共同研究先に提供いただいたコア径が125 μmのアクリルPOFを用いて、光パワー密度を向上させる取り組みも実践した。しかし、通信波長帯におけるアクリルPOFの伝搬損失は非常に高く、実効長が極めて短くなるために、ブリルアン散乱を観測することは困難であることが明らかになった。(3) そこで、アクリルPOFのコア径を125 μmよりも大幅に小さくし、光パワー密度を更に向上させてブリルアン散乱の観測を可能にすべく、そのテーパー加工技術の開発を進めた。アクリルPOFの低いガラス転移温度を利用して、熱湯を用いる比較的簡素かつ低コストの方法を採用した。熱湯に浸す時間と引っ張る速度を制御することで、任意のテーパー形状を実現することを目標に据えた。現状では、自動ステージが不足しており、一方を手動で制御せざるを得ない状況であるが、おおよそ想定通りの加工ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前項で記したように、通信波長帯においては細径アクリルPOF中のブリルアン散乱の実験的観測には成功していない現状である。しかし、これは当初から想定していた結果であり、その対策として準備していた複数のアイデアの実装を順調に進めることができている。その主要な方向性がアクリルPOFのテーパー加工法の提案であり、任意の外径および長さを有する形状への加工が実現しつつあることから、現在までの進捗としてはおおむね順調であると判断した。ポンプ・プローブ法によるブリルアン散乱信号の増強にも取り組みつつあり、今後の展開が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、(1) アクリルPOFのテーパー加工法の確立、(2) ポンプ・プローブ法に基づく実験系の構築、の2点を中心に研究を推進し、アクリルPOF中のブリルアン散乱の実験的観測につなげたい。両者の詳細を以下に記す。 (1) アクリルPOFのコア径を細くし、光パワー密度を更に向上させるべく、引き続き、そのテーパー加工技術の開発を進める。これまでに熱湯を利用した簡素な手法を実装したが、その加工自由度をさらに向上させ、熱湯に浸す時間と引張速度を制御することで任意形状を実現させる。これまでの手法は、アクリルPOFの両方向から同じ速度で引っ張るものであった。この方式では、細いウエスト部分を形成することはできるものの、その長さは装置の大きさに依存してしまうという欠点があった。そこで、一方の端面をある速度で引っ張り、もう一方の端面はそれよりも遅い速度で逆の方向に押し出す、という方式を実装する。この手法では、両者の速度を制御することで、ウエスト部分を任意の長さまで形成することができるようになる。今後、プロセス全体を自動化した後に本手法の有効性を実証するとともに、長さによらず安定して形成できるウエスト径の最小値を解明したい。そして、この手法でテーパー加工されたアクリルPOFに通信波長帯および可視光帯の光をそれぞれ入射し、光伝搬損失がどの程度なのか、断面積を考慮した場合のブリルアン利得係数はどの程度向上するのかを明らかにしたい。(2) アクリルPOF中のブリルアン散乱は極めて微弱であるため、片端光入射型の実験系では観測できない可能性がある。そこで、光をアクリルPOFの両端から入射するポンプ・プローブ法に基づく実験系を構築する。この場合、複雑にはなるものの、対向伝搬光の相互作用により誘導散乱への遷移が生じ、ブリルアン散乱が増強される。プローブ光の周波数調整が重要となるため、最低な条件を模索する。
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Research Products
(24 results)