2020 Fiscal Year Research-status Report
A study of the radiation effect and its mechanism on nano-fabricated spintronics devices
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20K22424
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Research Institution | Japan Aerospace EXploration Agency |
Principal Investigator |
渡部 杏太 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 研究開発部門, 研究開発員 (00871518)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | スピントロニクス / 放射線 / ソフトエラー / 強磁性体 / 異常ホール効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
宇宙用の集積回路(LSI)には、耐放射線性と低消費電力化が求められ、その解の有力候補として、不揮発性メモリとして研究開発が進むSTT-MRAMがある。STT-MRAMではスピントロニクス素子が情報の記憶を担い、磁化の方向で情報を記憶する。スピントロニクス素子は耐放射線性を有することが報告されている一方、直径50 nm以下まで微細化した素子においては放射線によるソフトエラー(磁化反転)が報告されている。しかしながら、この放射線誘起の磁化反転のメカニズムは現在でも明らかにはなっていない。本研究では、金属材料のHallバー上に多数の磁性ナノドットが形成された構造の素子(磁性ナノドットアレイ素子)を用いる。磁性ナノドットアレイ素子はスピントロニクス素子の1種であり、Hallバーを介して磁化の状態の読出(異常Hall効果)と操作(スピン軌道トルク)が可能である。磁性ナノドットアレイ素子はSTT-MRAMに用いられるスピントロニクス素子と比較して構造が単純であるため条件を変えやすく、系統的な依存性を評価するのに適している。先行研究によると、最も可能性の高い磁化反転のメカニズムは放射線の命中による温度上昇だったため、ドット径や磁性材料(キュリー温度)、環境温度に対する依存性を取得することによって、メカニズムの議論が可能となると考えられる。 2020年度は、東北大学電気通信研究所の設備を外部利用して試料の作製の第一弾を行った。この試料ならびに試料作製手続きをベースラインとし、今後の研究を推進する。また、作製した試料を実験用に組み立て、放射線照射実験を所属機関内(インハウス)で実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
宇宙応用を見据えたスピントロニクス素子の放射線影響評価に着手した。東北大学電気通信研究所の設備を外部利用した試料の作製を行った。マグネトロンスパッタリングを用いてHallバー素子の構造として典型的なW/CoFeB/MgO積層を製膜し、イオンミリングを用いて微細加工を行って、磁気ナノドットアレイ素子を作製した。走査型電子顕微鏡を用い、直径80nm程度のナノドットを多数有する素子の作製されたことを確認した。また、それらの磁化状態は異常Hall効果を介してモニタ出来ることも確認した。試料を実験用に切り出し、現所属機関にて放射実験用に組み立てた。所属機関内の放射線照射設備を用い、α線の照射実験を実施した。照射効果を明確に見ることはできなかったが、このような構造のスピントロニクス素子を用いた世界初の放射線照射実験をスタートさせることができたため、順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
スピントロニクス素子は基本的に放射線に対して耐性があるとされているため、明確な照射効果を見るためには、より高エネルギの放射線を照射する必要があると考えられる。2021年度は外部研究機関の照射設備を用いて、高エネルギの重粒子線を照射する予定である。 2020年度の実績より、設備を外部利用して作製する場合、一連のターンアラウンドタイムが想定よりも長いことが判明した。このことを鑑み、2021年度の試料作製はカスケード状に実施し、必ずしも照射実験を受けて次の試料作製に進む手続きでなくすることにより、実質的なPDCAサイクルの高速化を図る。実験素子であり必ずしも良好な特性の素子が作製できるわけではなく、一方で外部利用のために柔軟な対応が難しい点も、上記による改善が期待される。 また、磁気ナノドットアレイ素子は磁性体の上部に電極を有しないことを利用し、パルスレーザ照射実験を実施する。パルスレーザの照射により、熱による磁化反転の影響を切り分けることができ、放射線影響メカニズムの解明を推進できると考えられる。
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Causes of Carryover |
共同研究契約を締結に時間を要したため、東北大学電気通信研究所の設備を外部利用して実験試料を作製する機会が予定よりも少なくなり、次年度使用額が生じた。研究推進のため、2021年度は試料作製の手続きを改善して回数を増やし、次年度使用額と合わせて執行する計画である。
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