2020 Fiscal Year Research-status Report
Application of Concentrated Aqueous Solutions for Highly-efficient Anodic Dissolution of Metals
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20K22462
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
安達 謙 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (10880057)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | アノード溶解 / 濃厚水溶液 / 電気化学 / クロム |
Outline of Annual Research Achievements |
飽和溶解度に近い高濃度で金属塩を含む濃厚水溶液の、電気化学反応の場としての新たな用途として、本研究では、金属材表面の不動態皮膜を不安定化させアノード溶解を促進する性質に着目し、消耗型アノードの使用を可能にする電解液としての利用可能性を検討する。 金属塩化物などの特定の金属塩を高濃度で含む濃厚水溶液は、水分子と溶質イオンとの相互作用に由来する特異な電気化学的性質を有する。この系では、溶質が希薄な場合に成り立つDebye-Huckel則が適用されず、溶質の活量係数が1から大きく外れた値を示す。とくにプロトン(H+)の活量係数は数千に至るまで異常に大きくなり、H+の実在濃度が小さい場合でも高濃度の塩酸や硝酸に匹敵する負のpHが得られる。加えて、溶質イオンが多量に存在するために優れた錯体形成能も併せ持つ。このような系で金属材をアノード溶解する場合は、表面の酸化皮膜などが不安定となるため不動態化が抑制されると考えられる。 研究代表者らはこれまでに濃厚水溶液におけるクロム電析を研究し、濃厚水溶液中でのみ達成できる電析反応を世界に先駆けて示した。希薄水溶液中では不可能な電析が濃厚水溶液中において可能となる理由の一つは、カソード表面での不動態皮膜の形成が抑制されるためと推察される。このことは、濃厚水溶液が高効率な金属のアノード溶解を可能とすることを示唆するが、実際にどの程度まで溶解速度を高められるかは実験による検討が必要である。 これまでに塩化リチウムや塩化カルシウムといったアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の塩化物の水溶液を用いて金属クロムのアノード電解に関する実験を行い、希薄な水溶液中では不可能であったクロムの活性溶解が濃厚塩化物水溶液中においては可能になることを示す結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究実績として、塩化リチウム(LiCl)や塩化カルシウム(CaCl2)などのアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の塩化物の水溶液を中心として、濃厚水溶液中における金属クロムのアノード電解に関する検討を行った。塩化カルシウムと塩化クロムを溶質とする水溶液中で金属クロムを掃引速度10 mVs-1でアノード分極する電解試験を行い、CaCl2濃度の異なる複数の電解液を用いて、低濃度(1.0mol kg-1)から高濃度(9.3mol kg-1)の電解液におけるアノード分極挙動を比較した。低濃度の希薄塩化物浴ではクロムを浸漬電位から貴な方向に電位を掃引しても、金属表面に形成されるクロムの酸化物や水酸化物から構成される不動態化皮膜のために金属溶解によるアノード電流がほとんど流れず、更に貴な電位で塩素イオンの酸化電流のみが得られた。一方で高濃度の濃厚塩化物浴を用いた場合は、浸漬電位から貴な方向に電位を掃引すると直ちにアノード電流が流れた。このことは、濃厚水溶液中において金属クロム表面の不動態化皮膜の化学的安定性が低下するために金属クロムの活性溶解が維持されることを示唆しており、濃厚水溶液電解液が金属のアノード溶解を促進し可溶性アノードが使用できる電解プロセスを拡大できる可能性があると考えられる。今後は、塩素ガスと反応が競合する場合のアノード溶解の電流効率の検討や、他の金属塩の濃厚水溶液を用いた比較試験を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでは、塩化リチウム(LiCl)や塩化カルシウム(CaCl2)などのアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の塩化物の水溶液を中心として、濃厚水溶液中における金属クロムのアノード電解に関する検討を行い、濃厚水溶液電解液が金属のアノード溶解を促進し可溶性アノードが使用できる電解プロセスを拡大できる可能性を示す結果を得た。今後は、塩化物系の濃厚水溶液における金属のアノード溶解挙動についてより詳細な調査を行う。具体的にはアノード溶解速度の上限である臨界電流密度や、定常条件でのアノード溶解など、速度論的要因が支配する部分について詳細に検討する。また、アノード溶解の電流効率の検討や、他の金属塩の濃厚水溶液を用いた比較試験を行うことで、本手法の有効性をより明確にしていく予定である。 また、これまではアノード反応のみに着目した検討を行ってきたが、今後は同一浴中でおこるカソード反応も含めた解析を行い、アノード・カソードのトータルで考えた場合の電析プロセスの成績について最適な電解浴組成に関する検討を行うことで、濃厚水溶液を用いる高度な新規電析プロセスの構築を目指す。
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Causes of Carryover |
次年度で実施する実験に必要な物品費を確保するため、次年度使用額が発生する。 実験の内容上、初年度より次年度の方が高価な薬剤や電極を使用するため、次年度の方が多くの助成金を使用する予定である。
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