2020 Fiscal Year Research-status Report
Hansen溶解度パラメータに立脚したニューラルネットワークによるゲル化予測
Project/Area Number |
20K22471
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
村上 裕哉 東京理科大学, 工学部工業化学科, 助教 (80880757)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | ゲル化予測 / 溶解度パラメータ / ニューラルネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,ゲル化剤によるゲル形成が可能な条件について,Hansen溶解度パラメータ(HSP)を手掛かりとしてニューラルネットワークによって整理することを目指している.2020年度は,ゲル形成とその評価法の確立を念頭に,(1)大豆レシチンを用いたハイドロ・オルガノゲル形成条件の探索およびゲル強度の評価,(2)低分子ゲル化剤を用いたゲル形成条件の探索およびゲル強度の評価を行った. (1)に関して,ゲル化剤(大豆レシチン),水,食用油の三成分の混合比を変えることでゲル形成が可能な条件探索を行った.その結果,ゲル形成が可能な領域は,水リッチなゲル(ハイドロゲル)と油リッチなゲル(オルガノゲル)の二領域に分かれることが明らかとなった.これは,二種類の溶媒の混合によりゲル化剤との親和性が変化し,ゲル化剤と溶媒の間の分子間力が適切な範囲のみでゲルが形成されることを示している.また,特にオルガノゲル形成領域に関しては,用いる油を構成する分子の炭素鎖数によって大きく変化することが明らかとなった.これは,HSPを用いたゲル化傾向の整理において重要な知見となる. (2)に関しては,より系統的なゲル化傾向の整理を行うために,15種類以上の溶媒を用いたゲル形成実験を行った.ゲル化剤としては12-hydroxystearic acidを用いた.結果,ゲルを形成する溶媒は,Hansen空間上でクラスターを形成する様子が確認された.一方で,レオメーターによるゲル強度の評価を行ったところ,HSPとゲル強度の間に相関は見られなかった.これは,ゲル内部の分子配列が分子内の官能基等で大きく変化するため,HSPが内包する分子情報は,ゲル強度を表現可能な情報量を持たないことが示唆される.今後は,各化合物が有する物性とゲル化傾向の間の潜在的関係性について,機械学習を用いて整理することを目指す.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2020年度には,(1)大豆レシチンをゲル化剤として用いたハイドロゲル・オルガノゲルの調整および(2)低分子ゲル化剤を用いたゲル形成とレオロジー解析を行った.(1)に関しては,溶媒として水・食用油の混合物を用いることで,溶媒の特性がゲル形成に与える影響の調査を行った.結果,ゲル化に大きな影響を与える要因として,水/油混合比率および油の構成分子の炭素鎖長が挙げられることを明らかにした.特に,水/油混合比率に関しては,水リッチなハイドロハイドロ形成領域と油リッチなオルガノゲル形成領域の二領域でのゲル化が観測されたことより,溶媒とゲル化剤の親和性が適切な強さとなった際にゲル化が起こることが示唆された.これは,Hansen溶解度パラメータ(HSP)を用いた整理の際に,ゲル化領域の内側に溶解領域,外側に析出領域が現れる現象とも整合性が取れる.今後は,炭素鎖のみならず官能基などを加えた際にゲル化にどのような影響を与えるかを検討する. (2)に関しては,ゲル化剤を12-hydroxystearic acidとした際のゲル形成条件とゲル強度についての調査を行った.15種類以上の溶媒を用いた検討の結果,HSPが近い溶媒においてはゲル化傾向が一致することが確認された.一方で,レオメーターを用いた降伏応力測定,降伏ひずみ測定においては,HSPとの相関性が見られなかった.これは,ゲル化剤と溶媒の間の親和性が,HSP中の3つのパラメーターのみで表現することが困難であり,適切なゲル形成の予測には官能基などの分子構造の詳細情報が必須であることを示唆するものである.特に分子が生み出す三次元構造が重要となるゲル形成において,構成分子の三次元構造を情報に取り入れることは必須であると考察される.
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は,(1)多様な溶媒・ゲル化剤を用いたゲル形成実験の遂行,(2)Hansen溶解度パラメータ(HSP)を用いたゲル形成予測,(3)分子の三次元構造や官能基などの情報を加えたゲル形成予測手法の確立の三点を行う. (1)に関しては,HSPの範囲を大きく広げてゲル形成の確認を行う.また,これまでと同様レオメーターを利用して降伏応力,降伏ひずみを測定するほか,ゲル化に必要な最小ゲル化剤量を測定することで,ゲル内部の繰り返し構造に含まれるゲル化剤分子/溶媒分子の比率を求めることを目指す.これらの結果は,ゲル内部のミクロな構造を明らかにする際の重要な知見となることが見込まれる. (2)に関しては,HSPのみを入力値としたニューラルネットワークを用いてゲル形成の予測が可能であるかの検証を行う.従来の報告では,球形の領域によりゲル化予測を行っていたが,ニューラルネットワークを用いることによりゲル形成領域をより自由度の高い形状とすることが可能となり,精度の向上が見込まれる.一方で,HSPがゲル形成を決定する要因として十分な情報量を有するかが未知数であるため,精度が十分でない場合は次項の入力値の拡張を行う. (3)に関しては,前述の通りHSPに加えて分子情報を入力値に加えることでゲル化予測の精度向上を目指す.特に,2020年度の結果から,分子の三次元構造や分子が有する官能基が重要な因子であることが示唆されているため,これらの情報を入力値として用いることを目指す.具体的には,グループ寄与法に立脚した官能基のベクトル化や,グラフニューラルネットワークを利用した分子のフィンガープリント化によって複雑な情報から入力値として利用可能な値の抽出を行う.
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Causes of Carryover |
2020年度は,コロナ禍の影響により計画していた学会の延期やオンライン化といった事態が発生したため,旅費にかかる経費が計画を大きく下回った.また,大学の一次的な閉鎖や入館制限などの対応により,研究に従事する時間が想定よりも大きく低減した.これらの複合的な要因により,計画よりも物品の利用頻度が低下し,使用額が低減した.特に想定していたニューラルネットワーク構築用の環境の整備を行わなかったために,支出金額が計画を下回った. 2021年度は,徐々に学会などの開催が行われるようになったため,昨年度使用しなかった予算を学会参加費や場合によっては旅費に充てることを想定している.また,ニューラルネットワーク構築用の環境整備に物品購入費を充てることを計画している.
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