2020 Fiscal Year Research-status Report
腫瘍免疫環境を非侵襲的にイメージングするナノ微粒子の開発
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20K22497
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
三浦 理紗子 京都大学, 工学研究科, 助教 (40881694)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | ナノ微粒子 / 多糖 / 光音響イメージング / 免疫療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
がん免疫療法は第4のがん治療法として近年注目されており、多くのがん種に対する臨床応用が進んでいる。その過程で、免疫療法が奏効せず悪性度が高い ”Cold Tumor” 呼ばれるがん免疫環境の存在が明らかとなった。そこで本研究では、がん免疫療法に抵抗性を示すCold Tumorの検出を目指し、Cold Tumorに多く分布するM2型マクロファージを標的とする光音響イメージング(Photoacoustic Imaging; PAI)に有効な多糖ナノゲル型造影剤の開発を行った。また、このナノ微粒子はセンチネルリンパ節(SLN)の検出へも展開可能だと考えられる。センチネルリンパ節は、がん組織からのがん抗原や免疫細胞が流入し、がん抗原特異的なT細胞を誘導する重要な組織である。そのため、SLNでの免疫抑制病態と転移がんをPAIにより早期に検出することは、がん治療法の方針決定において非常に有用である。以上のような画像診断法を確立し、組織検査による患者の苦痛や身体的負担を軽減し、がん免疫療法の治療効果の予測と治療方針の決定に有用な情報を提供することで、がん免疫療法の進展に大きく貢献する。 本研究では、新規多糖ナノゲル型造影剤として、M2型マクロファージリガンドとして機能し得るマンノース、及び、PAI造影剤であるIR820をプルランへ修飾した造影剤を設計した。IR820は疎水性を示すため、疎水性相互作用によりプルラン鎖間で物理的架橋点を形成し、ナノ微粒子を形成し得ると考えられる。そこで昨年度は、新規多糖ナノゲル型造影剤の合成方法の確立と、合成物の物性評価を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、多糖であるプルランへPAI造影剤のIR820を修飾する合成法を検討した。プルランへ無水コハク酸を縮合し、部分的にカルボキシル基を導入した。ナノ微粒子を形成するIR820の修飾率を検討するために、100単糖あたり1、2.5、5個のIR820が導入されるよう、カルボキシル基との縮合反応によるリンカーの修飾、続いてIR820の修飾を行った (PI)。合成物を水に溶解し、動的光散乱法により粒子径を測定したところ、いずれも100 nm前後の粒子径を示し、IR820間の疎水性相互作用を駆動力としたナノゲルを形成したことが示唆された。いずれのナノ微粒子もIR820単体と同様の波長に吸光・蛍光を示し、修飾率に応じて吸光度・蛍光強度は共に増強した。EPR効果による受動的腫瘍集積性を得るためには100 nm以下の粒子径が適していると考えられるため、100単糖あたりIR820修飾率2.5個を最適な修飾率として選択し、続いてマンノースの修飾を行った。 プルランへリンカーを修飾する際に、アミノ基末端を有するマンノース誘導体も同様に縮合し (PM)、続いてIR820を修飾しプルランにマンノースとIR820の双方を修飾した (PMI)。PMIの粒子径を測定したところ、PIと比較して小さな粒子径を示した。これはマンノースの修飾により親水性が向上したためだと考えられる。続いて、マンノースと特異的な結合を形成するコンカナバリンAを混合したところ、プルランやPIは変化が無い一方で、PM及びPMIは凝集沈殿を生じた。この結果より、確かにプルラン鎖へマンノースが修飾されていることが明らかとなった。 以上の検討により、多糖ナノゲル型PAI造影剤の開発に成功した。このナノ微粒子は100 nm以下の粒子径を示し、EPR効果による受動的な腫瘍集積性を有することが予想され、腫瘍の造影に有用であると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度合成したPI、PMIの細胞との相互作用、及び、マウス体内における動態と腫瘍のPAI造影を行い、PMIがM2型マクロファージ特異的に取り込まれることを明らかにする。 まず、RAW264.7 (マウス由来マクロファージ細胞株)、colon26 (マウス由来大腸癌細胞株) とのPI及びPMIの相互作用をIR820由来の蛍光を測定することで評価する。続いて、RAW264.7をM1型、M2型へ分極誘導し、同様に取り込み量の変化を評価する。PMIはマンノースを有するため、M2型のRAW264.7への取り込みが促進されると考えられる。続いて、PMIがマンノース特異的に取り込まれていることを結合阻害実験により評価する。M2型マクロファージへの取り込み量が増加しなかった場合は、マンノースの修飾量を増加させたり、M2型マクロファージリガンドを変更したりすることで、改善を試みる。 続いて、PMIによるin vivo造影を行う。colon26を担癌したマウスモデルへPMIを静脈投与し、各臓器への分布をin vivo蛍光イメージング (IVIS) により評価する。さらに、腫瘍の3次元造影をPAIにより行う。続いてPMIのM2型マクロファージ特異性を評価するため、PMIが腫瘍内部において相互作用する免疫細胞をフローサイトメトリーにより評価する。また、同一マウスへ異なる2種類の担癌を施し、各腫瘍へのPMIの集積量、及び、各腫瘍内部のM2型マクロファージの分布量を評価することで、M2型マクロファージが多いCold Tumorをより鮮明に造影し得ることを検討する。また、PMIを皮下投与あるいは腫瘍近傍へ局所投与することにより、センチネルリンパ節の造影を試みる。 以上の検討により、合成したPMIがPAIによるCold Tumorの造影、及び、センチネルリンパ節の造影に有用であることを明らかにする。
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Causes of Carryover |
今年度はCOVID-19の影響により、実験期間の短縮、学会の中止やオンライン化が重なり、主に旅費が不要となったため、次年度使用額が生じた。 次年度は当該助成金を主に消耗品費へ充て、研究を進めていく予定である。次年度は主にin vitro、in vivo検討を進めるため、細胞培養・アッセイ用試薬購入費、実験用動物 (マウス) 購入費、タンパク質・抗体試薬購入費へ充て、合成した多糖ナノゲル型PAI造影剤のCold Tumor及びセンチネルリンパ節の造影能を評価する。
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