2020 Fiscal Year Research-status Report
分子標的素子の集積化によりがん細胞を見分ける細胞標的高分子薬の開発
Project/Area Number |
20K22499
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
仲本 正彦 大阪大学, 工学研究科, 助教 (30883003)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 高分子阻害剤 / ポリ-α-グルタミン酸 / がん細胞認識 |
Outline of Annual Research Achievements |
がん細胞表面では、複数種の膜タンパク質が過剰発現している。これらのタンパク質の協同的な働きが異常な増殖、浸潤および転移といった特徴的なふるまいを維持するのに重要な役割を担う。本研究では、がん細胞上に過剰発現する二種のタンパク質それぞれに対して結合および阻害能を示す化学構造を分子標的素子として高分子内に集積することで、タンパク質の組み合わせとしてがん細胞表面を高感度に見分け、タンパク質群の協同的な阻害により細胞機能を阻害する『細胞標的高分子薬』の開発を目指している。 標的タンパク質として、乳がん細胞で過剰発現し、空間的に密接し協同的に細胞代謝を担う、カルボニックアンハイドラーゼIXおよびマトリックスメタロプロテアーゼ14を選択した。高分子骨格として生体適合性および生分解性を有するポリ-α-グルタミン酸を選択した。二種の標的タンパク質阻害剤をアミド縮合反応により高分子に導入することで細胞標的高分子の作製を試みた。その結果、種々の反応条件の最適化により修飾率を制御したポリマーライブラリの作製を達成した。 作製した細胞標的高分子の乳がん細胞(MDA-MB-231)に対する代謝阻害能を評価したところ、二種類の阻害剤で修飾された高分子は、阻害剤を一種類しかもたない高分子と比較して、高い細胞増殖阻害能を示すことが明らかとなった。今後、低分子阻害剤との比較を行い高分子構造への阻害剤構造の集積による相乗的な効果を実証する。更に、高分子の分子量および阻害剤修飾率が阻害能に与える影響について詳細の評価を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は高分子に導入する酵素阻害剤の合成、およびポリ-α-グルタミン酸への阻害剤の導入における最適な反応条件を確立した。結果として、二種の阻害剤を任意の導入率で有するポリ-α-グルタミン酸の作製に成功した。また、過度な阻害剤の導入は高分子の水溶性低下をもたらし、中性pHにおいて不溶の沈殿を生じたことから、適切な修飾率が機能において重要であることが示唆された。 適切な修飾率で二種類の阻害剤を導入したポリ-α-グルタミン酸は、阻害剤を一種類しかもたない高分子と比較して、乳がん細胞(MDA-MB-231)に対して高い細胞増殖阻害能を示すことが明らかとなった。今後さらなる解析を行い、作製した高分子の相乗的な酵素および細胞機能阻害効果を実証する。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は二種類の阻害剤で修飾された高分子が阻害剤を一種類しかもたない高分子と比較して、高い細胞増殖阻害能を示すことが明らかとなった。本年度は、低分子阻害剤との比較を行い高分子構造への阻害剤構造の集積による相乗的な効果を実証する。更に、高分子の分子量および阻害剤修飾率が阻害能に与える影響について詳細の評価を行う。 がん細胞上のタンパク質の発現量は患者間、進行度合い、さらには腫瘍内においてさえ不均一であるため、効果的な治療には多様ながん組織それぞれに最適化した細胞標的高分子薬が望まれる。したがって今後は、より発展的な戦略として、標的細胞組織を鋳型として分子標的素子を高分子構造へ集積化する手法を開発する。具体的にはアジド化した上述の分子標的素子を標的細胞にまぶし、細胞上のそれぞれの標的タンパク質へマッピングする。その後にアルキン化高分子骨格を加え、生体適合性の高いアジドーアルキンクリック反応により標的細胞に最適化した分子標的素子集積化を行う。得られた高分子および標的組織非存在下で作成した高分子の細胞親和性、選択性および阻害能を比較し本技術の有用性を実証する。
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Causes of Carryover |
高分子に導入する酵素阻害剤の合成において、計画よりも高収率で合成および精製が達成できたために原料試薬の購入費に計画との差異が生じた。また、新型コロナウイルスの蔓延に伴い各種学会が中止、またはオンライン開催となったために旅費、学会参加費において計画との差異が生じた。翌年度分として計上した助成金については、化学試薬、および細胞アッセイキットの購入に充てる計画である。
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