2020 Fiscal Year Research-status Report
電子-振動強結合系に対する量子散逸系理論の一般化と分光理論への応用
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20K22520
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
池田 龍志 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (20887278)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 量子ダイナミクス / 量子散逸系 / 非断熱遷移過程 / 量子非局在化 / 非線形光学応答 / スモルコフスキー方程式 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、電子状態と振動状態が結合した系に関する環境の効果に対する一般的なモデルを構築すること、およびその非線形光応答をシミュレーションする新たな量子散逸系理論を構成して、エキシトン/電子輸送問題や非断熱遷移過程が重要となる光異性化問題などについての振動・電子分光の統一的記述・解析を行うことである。 振動・電子の強結合系においては、高次の振動励起状態は非常に強く環境と結合した描像となる。このために、一般化したモデルのシミュレーションを行う際に、現在最も数値的に厳密で信頼性があると見なされている階層型運動方程式(HEOM)理論で扱える範囲を超えるパラメータ領域がしばしば現れるという問題に直面した。本年度はこの難点を解決すべく、従来のHEOM理論を超えた、注目量子系と環境の超強結合領域を扱える理論の開発に取り組んだ。結果として、以前に開発した多準位量子状態に強摩擦を受けた振動子が結合した系についての量子スモルコフスキー方程式による記述理論とHEOM理論を統一的に扱う枠組みを開発することで、数値計算のコストは上がってしまうものの今までに収束しなかったパラメータ領域を記述できることを見出した。この成果の一部を物理学会第76回年次大会にて発表した。 本研究の次の段階として現在、上記の新しい量子散逸系理論に対して(1)極低温への適用を含めた一般化、(2)振動的な環境のスペクトル密度への一般化というそれぞれ別の応用に派生する拡張を行い、電子・振動結合系に限らない汎用的な枠組みの構築を試みている。また、電子・振動結合系の記述としては上記の一般化を含まない現在得ている形で十分であるため、並行して数値シミュレーションのためのプログラムを開発し、目的である量子輸送・非線形光応答の解析を進めることを予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」にて述べたように、研究計画段階で持っていた量子開放系理論の拡張のアイディアのうちの一つが実際に機能することを見出し、本研究の目的を達成するにあたって最も大きな問題だった点を解決することができた。 数値シミュレーションについて、当初予定していたGPGPUのためのグラフィックカードが販売終了してしまい単価の高い後継品を使用することとなったため、複数枚購入し並列化することによる計算効率化が不可能になった。この問題について、グラフィックカードの単体性能が向上したことで対応可能であると考えているが調査中である。
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Strategy for Future Research Activity |
新たに構築した理論は電子・振動結合系に限らない汎用的な枠組みに書き直すことができるため、まずは(1)(2)の一般化を取り入れた上でこの理論自体の論文化を行えるように開発を続けている。しかしながら、この理論では従来不可能であったパラメータ領域の計算を扱えるものの数値計算のコストが高いため、GPGPUによるシミュレーションプログラムの効率化が必須である。非線形光応答の解析に向けて、このプログラム開発を並行して行う。
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Research Products
(1 results)