2020 Fiscal Year Research-status Report
反応剤の直接的光励起を活用する典型元素導入反応の開発
Project/Area Number |
20K22521
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
永島 佑貴 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (90880055)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 光反応 / 励起状態 / 典型元素化学 / ジラジカル / 有機スズ化合物 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、典型元素の中でも「スズ(Sn)」に着目した。 有機スズ化合物は、炭素―スズ(C-Sn)結合を有する有機化合物で、クロスカップリング反応の原料として様々な有機化合物の合成に汎用される。そのため、その多様な合成法を確立することは、医薬化学・材料化学など様々な分野において重要な課題である。これまでは、有機スズアニオン種や有機スズラジカル種を用いた付加反応や、遷移金属触媒に代表される触媒反応が有機スズ化合物の合成法として用いられてきた。本研究では、より多様な合成手法を開拓することを目指し、光励起状態を利用した新たな手法の開発を行った。 具体的には、購入可能な反応剤であるスタニルシラン (Si-Sn) をスズ元素源として、フッ化物イオンを添加して生じる有機スズアニオンに着目した。この有機スズアニオンの光励起状態を作り出すことで、新たな反応性を有するスズ化学種の創出を試みた。 モデル化合物の理論計算を行った結果、青色光によって有機スズアニオンを効率よく光励起できることが示唆された。スズの重原子効果により、励起三重項状態へ移行することも予想された。こうして生じるスズジラジカル(励起三重項状態)の分子軌道を解析したところ、高い1電子還元能を有することが予測され、従来とは異なる反応性を実現できる可能性が示された。 そこで、様々な基質との反応を検討したところ、末端アルキンへのヒドロスタニル化反応や、フルオロアレーンの脱フッ素スタニル化反応が進行することを見出した。本化学種が有する高い反応性と選択性は、従来法では困難な化学変換を可能にした。さらに、生成する有機スズ化合物のクロスカップリング反応を利用した連続変換プロセスを開拓し、多様な誘導体が合成できることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画であった典型元素反応剤の光励起状態を直接利用できる反応形式を設計することで、有機スズ化合物の新規合成法を開発した。本手法は、最も安定な結合の一つである炭素―フッ素結合を直接スタニル化することができ、その後の誘導化反応と組み合わせることで、安定な化合物に対して典型元素を直接導入する手法を確立するという当初の目的を達成した。本成果は、本年の J. Am. Soc. Chem. 誌に採択された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、より多様な典型元素の導入反応へと周期表横断的に展開すべく、反応系の設計と検討を実施する。
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