2020 Fiscal Year Research-status Report
機能性錯体からなるブロック超分子結晶の階層的精密集積化とその機能の開拓
Project/Area Number |
20K22523
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
福井 智也 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (40808838)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 結晶化 / 自己集合制御 / 金属錯体 / ブロック構造体 / スピンクロスオーバー |
Outline of Annual Research Achievements |
分子の配列や集合形態、そして、さらに上位の階層にある集合体同士の集積構造まで精密に制御することができれば、分子に秘められた機能を最大限引き出した物質創製が可能となる。本研究では、異種金属錯体分子の単結晶同士がヘテロ接合したブロック超分子結晶の創製とその機能開拓を世界に先駆けて行う。具体的には、(1)結晶のサイズ・モルフォロジーの精密制御、(2)異種結晶の接合されたブロック超分子結晶の創製と(3)その機能の開拓を目的とする。初年度においては、4-カルボキシ-2,6-ジピラゾリルピリジンを配位子とする鉄(II)錯体、コバルト(II)錯体、亜鉛(II)錯体の合成および単結晶化、ならびに、それらを用いたブロック超分子結晶の作製に取り組んだ。鉄(II)錯体、コバルト(II)錯体、亜鉛(II)錯体の単結晶作製条件の最適化により、高品質かつ均質な単結晶が再現よく得られる条件を見出した。それらの単結晶に関して、X線構造解析によりそれぞれの錯体の集積化構造について評価した。次に、ブロック超分子結晶の作製方法について検討した。種々の検討の結果、コバルト(II)錯体および亜鉛(II)錯体の結晶化の際、鉄(II)錯体の単結晶を種結晶として添加することで、種結晶界面からの結晶化が進行し、鉄(II)錯体の結晶をコア、他方の錯体結晶をシェルとするブロック超分子結晶の作製に成功した。非常に興味深いことに、鉄(II)錯体の結晶をコア、コバルト(II)錯体をシェルとするブロック超分子結晶のX線結晶構造解析の結果、コバルト(II)錯体のみの結晶構造とは異なる錯体分子の集積化構造の形成が明らかになった。この結果は、異種物質の接合によって、単成分系では見られない構造形成が誘起されたことを示している。今後、ブロック超分子結晶の磁性や熱伝導特性といった物性について評価する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度である令和2年度は、ブロック超分子結晶創製の鍵となる(1)機能性錯体からなる結晶のサイズ・モルフォロジーの精密制御、ならびに、(2)異種結晶の接合されたブロック超分子結晶の創製に取り組んだ。はじめに、配位子である4-カルボキシ-2,6-ジピラゾリルピリジン誘導体とその鉄(II)錯体を合成し、鉄(II)錯体の単結晶を得た。鉄(II)錯体の溶液に対してカウンターアニオンの飽和溶液をゆっくりと拡散することにより、高品質かつ均質な単結晶が再現よく得られる条件を見出した。得られた単結晶に関しては、単結晶X線回折により錯体分子の集積化構造を評価した。この結果、カルボキシ基同士の水素結合形成により錯体が1次元に集積化した構造を形成していることを明らかにした。次に、鉄(II)錯体と同じ配位子を用いてコバルト(II)錯体、ならびに亜鉛(II)錯体の合成と単結晶化に成功した。その結果、亜鉛(II)錯体は鉄(II)錯体と同様の結晶構造を形成するのに対して、コバルト(II)錯体は異なる結晶構造を形成することが明らかになった。3種類の異なる錯体分子が得られたことから、ブロック超分子結晶の作成条件を検討した。種々の検討の結果、コバルト(II)錯体、ならびに亜鉛(II)錯体の結晶化の際、鉄(II)錯体の単結晶を種結晶として添加することで、鉄(II)錯体の単結晶をコア、他方の錯体の結晶をシェルとするブロック超分子結晶の作製に成功した。予想外なことに、鉄(II)錯体の単結晶をコア、コバルト(II)錯体の結晶をシェルとするブロック超分子結晶において、コバルト(II)錯体の集積化構造がコバルト(II)錯体のみの単結晶とは異なる集積化様式であることが明らかになった。この結果は、異種物質の接合によって、単成分系では見られない構造形成が誘起されたことを示しており、極めて興味深い結果である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのところ、高品質なブロック超分子結晶を再現よく得られる作製条件を見出している。令和3年度においては、顕微ラマンや偏光顕微鏡観察、X線回折を駆使したブロック超分子結晶の精密な構造解析とSQUIDを用いた磁化率の測定、さらには単結晶の熱伝導度測定を計画している。年度前半においては、ブロック超分子結晶の構造解析に注力する。具体的には、顕微ラマンを用いた測定により、ブロック超分子結晶を構成する錯体分子のマッピングやスピン状態の評価を行う。また、DSC測定と温度可変単結晶X線回折を駆使することで、ブロック超分子結晶の相転移挙動やその構造変化について詳細を明らかにする。年度後半においては、ブロック超分子結晶の物性評価に注力する。初めに、SQUIDを用いた温度依存磁化率の測定により、ブロック超分子結晶のスピン状態の変化を明らかにする。このとき、それぞれの錯体分子の単結晶とブロック超分子結晶の磁化率変化について系統的に解析することで、ブロック構造化によって錯体分子のスピン状態に影響が及ぼされるのか解明する。特に、本研究課題で用いている鉄(II)錯体は温度や光といった外部刺激によってスピン状態をスイッチするスピンクロスオーバー現象を示すことが期待されることから、ブロック超分子結晶のスピンクロスオーバー挙動について詳細に検討を行う。次に、それぞれの錯体の単結晶ならびにブロック超分子結晶の熱伝導度の評価を行う。特に、スピンクロスオーバー現象は結晶の体積変化を伴う1次相転移であることから、スピンクロスオーバー現象と熱伝導挙動の相関関係を明らかにする。さらに、ブロック超分子結晶のコアからシェル、また、シェルからコアのように熱輸送の方向を変化させた場合に熱輸送特性に方向性が見られるのか検討するとともに、ブロック超分子結晶を基盤とした熱ダイオード特性について検討する予定である。
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Causes of Carryover |
初年度は新型コロナ感染症の対策により、大学への出校日数や時間を制限され、実験可能な時間が減少したことから、本研究に用いる配位子や錯体を厳選し、本研究の目的達成に最短で到達できるよう計画した。その結果、配位子合成や金属錯体合成が非常に効率的に進んだため、試薬購入額が低くなった。初年度はブロック超分子結晶の作製手法を確立することができたことから、今年度はその手法を他の分子系へ拡張することが可能である。加えて、大学の出校制限もほぼ解除されたことから、今年度は様々な錯体分子を用いたブロック超分子結晶の作製を検討するために、網羅的な配位子の合成や他の錯体分子の合成に必要な試薬を購入し、研究課題をより迅速に発展させることが可能である。また、今年度はブロック超分子結晶の物性測定に数多く取り組むことから、大学のオープンファシリティーセンターが管理する共通設備(NMR、単結晶X線回折装置、SEM、顕微ラマン分光計、SQUIDなど)を高頻度で使用する予定であるため、これらの使用料として計上する。また、今年度は論文として本成果を報告することを予定しており、論文の英文校閲や投稿費用として使用することを計画している。
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