2020 Fiscal Year Research-status Report
A function-adjustable medical gel based on co-assembly of peptide-type gelator with various functional agents
Project/Area Number |
20K22533
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
森田 健太 神戸大学, 工学研究科, 特命助教 (60804127)
|
Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
Keywords | 低分子ゲル化剤 / ペプチド / 自己組織化 / ドラッグデリバリーシステム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、低分子ゲル化剤の自己組織化現象を積極的に利用することで既存薬の薬理活性を制御することを目的としている。低分子ゲルは、そのゲル内に疎水空間と親水空間およびその界面を有しており、種々の機能をプログラム可能な合成分子でもある。この性質を利用し、認可済み薬剤と低分子ゲルを組み合わせることで、その薬効・対象菌種・持続性を人工的に制御可能であることを実証しようと試みた。 これまでにAc-FFFGKという配列のペプチドゲル化剤(P1)は生体適合性が高いという知見が得られていたため、低分子ゲル化剤のモデルとしてまずはこれを用いた。疎水性薬剤のモデルとしては、古くから利用される抗真菌薬であるAmphotericin B(AmB)を選択した。P1をAmBと共に純水に投入し加熱するだけでAmBは水に可溶化され、室温で冷却すると直ちにゲル化した。こうして作製されたAmB-P1ゲルは高濃度のAmBを含有していることから、当然真菌に対して抗菌活性を有するものと予想された。しかし、実際には、AmBが抗菌活性を発揮する最低濃度の100倍のAmBを含むAmB-P1ゲルに真菌を播種しても真菌は全く問題なく生育した。すなわち、P1はAmBをその自己組織化体にco-assemblyすることでAmBを水溶化できるが、AmB自体の毒性はマスクしてしまうということを発見した。また、P1がゲル化濃度以下でAmBと共存する場合はP1-AmBミセルを形成してAmBを可溶化することも見出した。その際、P1-AmBゲルと同様にP1-AmBミセルの抗菌活性はAmB単体より弱化されていた。さらに、P1-AmBミセルにキモトリプシンを加えてP1を分解し、AmBの毒性を回復させることに成功した。当初の予定とは異なるが、低分子ゲル化剤の自己組織化を利用した薬剤の機能制御に成功したといえる。以上の結果を論文化し投稿準備中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の第一段階として「低毒性低分子ペプチドゲル化剤を用いた抗菌ゲルの作製・評価」を挙げた。これについては、予想とは異なった結果が得られたが完了している。まず、ゲル化剤としてAgarを、分散剤としてDMSOを用いてAmB-Agarゲルを作製した。この上に真菌あるいは細菌を播種したところ、1 ug/ml以上のAmBを含む場合に真菌に対してのみ毒性が確認された。次に、P1とAmBを純水中に添加して加温するだけでP1はAmBを可溶化し巻き込みながら自己組織化することで高濃度のAmBを含有する抗菌ゲル(AmB-P1ゲル)を作製できた。そこで、AmB-Agarゲルの場合と同様に真菌・細菌を播種したところ、100 ug/mlのAmBを含むAmB-P1ゲル上であってもいずれの菌種も生育できた。すなわち、P1はAmBを可溶化・ゲル化すると同時にAmBの抗菌活性を失わせたことになる。これは私の予想した結果とは異なるが、興味深い事実である。さらに、ゲル化濃度未満のP1とAmBを純水中で加熱することでP1がAmBをミセル中にco-assemblyして可溶化し、その際にAmBの抗菌活性をマスクすることも見出した。 研究計画としては続く第二段階に「複数分子の同時包摂(co-assembly)による抗菌ゲルの多機能化」を挙げた。Co-assemblyについては、P1を用いてAmBとErgosterolという2種の疎水性分子を同時に可溶化することに成功した(AmB-Erg-P1ゲル)。その際、AmBはより高濃度で可溶化された。しかし、AmB-P1ゲルの場合と同様、AmB-Erg-P1ゲルは真菌・細菌のどちらにも毒性を示すことはなかった。ここに至って、本研究は大きな方向転換を余儀なくされた。そこで私は、AmB-P1ミセルに捕われたAmBの毒性を、P1を分解することで再生できるのではないかと考えた。そして、AmB-P1ミセルをキモトリプシンと共に真菌に与えると、AmBの毒性の一部が回復した。すなわち、計画した方法とは違えど抗菌ゲルの機能制御という目的は達したといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究計画の第二段階「複数分子の同時包摂(co-assembly)による抗菌ゲルの多機能化」について、AmB-Ergの系ではうまくいかなかったが、他の薬剤の組み合わせで新たな機能を発現することを検討する。例えば、AmBとは異なる作用機序の抗真菌薬であるItraconazoleをAmBと共にco-assemblyすることで単体薬剤のみを用いた場合と比べて抗菌活性に相乗効果が生まれることを期待する。また、親水性の異なる薬剤についても同時包摂可能か検討を行う。その際、包摂された薬剤の機能がP1によってマスクされるかどうかも重要な点になってくる。もしも、機能がマスクされる薬剤が他にも存在し、その傾向を見出すことができれば、精密に設計したペプチドを特定薬剤の阻害剤として用いるという新たな研究分野にスピンアウトすることも可能であると考えている。 次年度は第三段階以降を重点的に推進する。「低分子ゲル化剤による抗菌薬剤分子のco-assembly構造解析」について、低分子ゲル化剤による抗菌薬のco-assembly構造を、電子顕微鏡(SEM, TEM)、小角X線散乱測定(SAXS)、CDスペクトル測定等を用いて解析する。実験で得られた結果と相補的に、厳密な最安定構造を計算化学的に確認・決定する。計算化学的手法については現在計算ツールを模索中である。MDシミュレーションを行うことができるソフトウェアパッケージは多くあるが、現在AmberかGromacsを用いることを検討している。いずれのソフトウェアについても本年中にスムーズに用いられるよう、ペプチドの構造計算に精通した協力研究チームと密接に連携して実験を行う。その後には、研究計画の第四段階である「低分子ペプチドゲル化剤の最適構造設計」について、ペプチド配列を細かく制御しながら試行錯誤を繰り返すのみである。
|
Causes of Carryover |
最も大きな理由としては、昨今の新型コロナウィルス蔓延の影響により、学会参加等のための出張機会が全く失われた事に依る。もう一つの理由として、研究実績の概要欄で述べたように、研究計画に予想外の変更が生じた。その結果、抗菌ゲルを作製する回数が当初の予定より少なくなり、ペプチド合成に必要なアミノ酸等の試薬の購入が少なくて済んだ。しかし一方で、少ない予算で論文化に充分な新たな知見が得られており、むしろ効率的な研究を推進していることは間違いない。次年度は計算化学ツールを用いた先進的な実験に重点が置かれ、それに付随するソフトウェアは高額であればあるほど効率的な計算が行えるため、ここに充当したいと考えている。
|
Research Products
(3 results)