2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K22538
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
金友 拓哉 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 助教 (70811876)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 有機ラジカル / 構造有機化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では有機分子のみで構築された強磁性体(有機磁石)の開発と機能性の開拓を目的とする。有機磁石は金属イオンを磁性源としないことから、金属の消費抑制や代替技術として期待される。有機磁石の実用化には化学的安定性の獲得と磁石として扱える温度(磁気相転移温度)の向上が重要である。そこで、本研究では共有結合性有機構造体(COF)に着目し、π共役系の周期性(スピン分極則)および分子対称性によるスピン配列を考慮した分子設計を行った。具体的には、スピロビアクリジンを母骨格にラジカル部位で架橋したCOFの開発を行う。スピロビアクリジンは化学的修飾が可能であり、化学的にも安定な物質群である。また、剛直なπ共役系はラジカル部位間に強い磁気的相互作用を与え、磁気相転移温度の向上に貢献する。2020年度は、上記COFのモデル化合物として、スピロビアクリジン-N,N’-ジオキシルを母骨格に各アクリジン環にラジカル部位を2か所挿入した、スピロヘキサラジカル化合物を合成した。また、1つのアクリジン環にのみラジカル部位を挿入したスピロトリラジカル化合物も合成した。得られたトリラジカル化合物の構造と磁性より、アクリジン環のπ共役系を利用したスピン配列を確認した。そして、ヘキサラジカル化合物の磁気測定より、各アクリジン環におけるスピン分極則に加えて、分子の対称性が反映されたスピン配置を示すことを明らかにした。本成果は1つの分子に異なる2種のスピン配列手法を導入できることを示した。これにより、上記のCOFおよび有機強磁性体への応用が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は有機分子のみで構築された強磁性体(有機磁石)の開発と機能性の開拓を目的とする。そこで、常磁性のスピロ骨格分子をビルディングブロックとする共有結合性有機構造体(COF)に着目し、固体中で分子およびスピンの配列を同時制御する分子設計の確立を試みる。スピロラジカル分子は剛直なπ共役系と分子対称性により高スピン配置の構築に有利である。本年度は、目的とするCOFの部分構造であるスピロビアクリジン-N,N’-ジオキシル骨格のヘキサラジカル化合物の合成を行った。この化合物はπ共役系の周期性と分子の対称性による2種のスピン配列手法を設計に組み込んだ。また、ヘキサラジカルの磁性を理解するために、片側のアクリジン環にのみラジカル部位を挿入したトリラジカル化合物も合成した。トリラジカル化合物およびヘキサラジカル化合物の構造と磁性より、π共役系の周期性に基づくスピン分極則と分子対称性によるスピン配列手法を1つの分子で示すことに成功した。ヘキサラジカル化合物は上記COFの部分構造であり、本成果は有機磁石を目指すCOFを構築し得ることを示唆するものである。そのため、現在までの進捗状況は概ね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的である共有結合性有機構造体(COF)を利用した有機磁石を開発するために、2020年度は部分構造であるスピロヘキサラジカルを合成した。このラジカルの合成手法はCOFの開発へ応用できるため、常磁性スピロ分子をビルディングブロックに有機強磁性体の開発を試みる。また、スピロ分子の化学的修飾による構造と磁性の相関を理解することは、本研究課題の遂行において重要である。そのため、ラジカル部位の挿入位置やスピロ中心の変化が磁性に与える影響についても調査する。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナ感染症により、研究活動が大きく制限された。これは予定していた試薬や実験器具の購入頻度の低下を招いた。また、国内学会や研究会が現地開催からオンライン開催へ移行しており、予定していた旅費の支払いが無くなったことも理由の1つである。2021年度は昨年度の経験を元に実験計画は当初の予定通り進める。また、昨年度の助成金分を利用して、合成および精製を効率良く実行できる機器の購入を検討している。
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