2021 Fiscal Year Research-status Report
溶媒分子置換反応による極性変換を基盤とした協奏的機能開拓
Project/Area Number |
20K22557
|
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
小林 文也 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 助教 (90884205)
|
Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
|
Keywords | 機能性金属錯体 / 極性集積構造 / 溶媒蒸気応答 / 第二次高調波発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、溶媒蒸気曝露による極性集積構造の変換が可能な単核アルミニウム(III)錯体[Al(sap)(acac)(solv)] (solv = MeOH, EtOH, DMSO)に関して、第二次高調波発生(SHG)の測定を行った。極性空間群であるCcに属しているDMSO体では、1064 nmのレーザー励起光に対して532 nmの強い緑色発光(SHG)が観測された。また、500~600 nmにかけてブロードな発光帯も観測され、多光子吸収過程による発光を示すことが明らかになった。これらの結果から、溶媒蒸気曝露による集積構造変換によってSHG特性の制御が可能であることが示唆された。圧電特性・強誘電特性に関する測定を行うことで、自発分極や誘電特性の制御に関する評価を進めている。 本研究におけるアルミニウム(III)錯体では、溶媒分子のドナー性(配位性)が大きく違うにもかかわらずアルコール体(MeOH、EtOH)とDMSO体の可逆的な配位溶媒置換が可能であった。これらの結果は、配位溶媒の置換反応が溶媒分子の極性やドナー性だけではなく、中心金属イオンにも依存することを示唆している。そこで、新たな金属イオンとしてマンガン(III)錯体 [Mn(sap)(acac)(MeOH)] を合成し、溶媒蒸気への応答性を評価した。MeOH体へDMSO蒸気を暴露したサンプルを作製し、粉末X線回折測定および熱重量分析により配位溶媒置換に関して評価を行ったところ、一週間ほどDMSO蒸気を暴露したサンプルでも配位溶媒の置換と集積構造の変化は観測されなかった。この結果は、中心金属イオンによる反応性の違いを明確に表しており、溶媒蒸気選択性の発現へとつながる非常に興味深い結果となった。今後はコバルト(III)錯体やクロム(III)錯体などの異なる金属イオンを用いることにより、溶媒選択性の更なる知見を得ていく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
合成したアルミニウム(III)錯体において、溶媒蒸気曝露による集積構造変換を利用した第二次高調波発生の制御が可能であることが示唆された。また、溶媒蒸気による置換反応は中心金属イオンに依存していることも明らかとなった。これらの結果は、溶媒蒸気選択性の発現へ繋がる可能性があり、非常に興味深い。現在は更なる機能性発現を目指し、配位子系を拡張した錯体の合成を行っており、溶媒蒸気による発光色の変化なども観測できている。以上から、おおむね順調であると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、引き続き圧電性や強誘電性に関する評価を進めていき、誘電特性の制御に関する評価を慎重に進めていく。また、中心金属イオンを変化させた錯体の合成および溶媒蒸気応答性の検討により、溶媒蒸気選択性に関する知見を得る。 今年度までの研究成果において、溶媒蒸気による可逆的な極性集積構造変換と誘電特性制御を達成したが、各アルミニウム(III)錯体において発光特性の明確な変化は観測されず、当初目的としていた中心金属イオン由来の発光特性と集積構造に起因した誘電特性の協奏的な多機能性スイッチングは達成できなかった。そこでπ共役系を拡張した配位子や重原子を置換した配位子を設計することで、集積構造と発光特性の協奏的な制御が可能となるような系の探索を進めていく。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、登校に関する人数制限や在宅勤務の推奨等によって研究活動期間が著しく制限された。また、当初予定されていた国内学会や国際会議等も中止や延期、もしくはオンライン開催となったため、本助成金には余りが生じた。2022年度の使用分に関しては、複数の国内学会および国際会議での研究成果報告に関する参加費や旅費、研究で使用する試薬代などで適切に使用する予定である。
|