2020 Fiscal Year Research-status Report
リボソームヘテロジェネイティによる開始コドン選択制御の解析
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20K22616
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
細金 正樹 東北大学, 医学系研究科, 助教 (30734347)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 翻訳制御因子 / 転写制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞は細胞種特異的な翻訳反応を可能とするために、開始因子(eIF)や伸長因子(eEF)などのリボソーム制御因子やリボソームタンパク質の発現を変化させ、リボソームヘテロジェネイティを作り出していることが明らかになってきた。リボソームヘテロジェネイティは様々な生物界で観察されており、進化的に保存された遺伝子発現制御メカニズムと考えられる。しかしながら、細胞がリボソームヘテロジェネイティを作り出す仕組みや、特に分化細胞の翻訳制御における意義については未だ明らかとなっていない。そこで、本研究では開始コドンの認識に関わる開始因子(eIF)ならびに翻訳伸長を制御する伸長因子(eEF)に着目し、それらの分子の異なる組織間のヘテロジェネイティの生理的な意義、翻訳調節への意義、生じるメカニズムの3点を明らかにすることを目的とした。 申請者はマウスの組織から抽出したRNAを用いてリボソーム制御因子の発現量比をqPCRで計測したところ、組織によってeIF1/eIF5比ならびにeEF1A2/eEF1A1比が異なることを確認した。続いて、マウスの組織から抽出したタンパク質を用いてeIF1/eIF5比ならびにeEF1A2/eEF1A1比をウエスタンブロットで計測したところ、eEF1A2/eEF1A1比はmRNA比と合致した傾向が認められたことに対し、eIF1/eIF5比は組織間における顕著な発現比の違いは観察されなかった。既存の報告でeEF1A2は骨格筋、心臓ならびに脳神経系での特異的な遺伝子発現を示し、eEF1A2の遺伝子変異が自閉症や拡張性心筋症の原因遺伝子であることが示されている。その一方で、eEF1A2/eEF1A1の発現比の翻訳調節への意義、生じるメカニズムが不明である。そこで、当初の計画で第一候補に想定していた開始因子ではなく伸長因子のヘテロジェネイティに研究の焦点を移行することとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請時の予定では開始因子のヘテロジェネイティに着目した解析を計画していたが、より顕著な組織間での発現比が観察できる伸長因子の解析に移行したため、当初の計画よりやや遅れている。脳神経ならびに筋肉系でのeEF1A2発現誘導のメカニズム解析を容易にするin vitroの細胞培養系を検討したところ、神経芽細胞株Neuro2AでeEF1A2が特異的に発現するため目的に適することを確認した。そこで、Neuro2A細胞をモデル細胞として、eEF1A2遺伝子の発現制御を担う転写因子とエピジェネティック因子をスクリーニングすることとした。Neuro2A細胞においてeEF1A2遺伝子の終止コドン直下にeGFP-2A-BlastRをMicrohomology-mediated end joining (MHEJ)を用いて組み込んだ。Blasticidin耐性細胞の選別とシングルセルクローニングにより得られた細胞に対して、Sangerシーケンスを行い正確に組み換えが起きていることを確認した。これらの細胞のeEF1A2-eGFP融合タンパク質の発現をウエスタンブロット並びにFACS解析で検出した。想定していたよりもeGFPのシグナルが弱いものの、内在性のeEF1A2 promoterで制御されるeEF1A2-eGFPの発現が確認された。この細胞を用いてshRNAライブラリを導入し、神経系細胞でeEF1A2遺伝子の発現制御を担う分子をshRNAによる各種転写因子とエピジェネティック因子ノックダウンによるeEF1A2-eGFPシグナルの減少を指標にスクリーニングする。また、eEF1A2/eEF1A1の発現比の翻訳調節への意義ならびに疾患発症の分子基盤を明らかにするために、疾患関連遺伝子変異を持ったeEF1A2変異体の構築に作手した。
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Strategy for Future Research Activity |
内在性のPromoterで制御されるeEF1A2-eGFPを発現するNeuro2A細胞をモデル細胞として、eEF1A2遺伝子の発現制御を担う転写因子とエピジェネティック因子のスクリーニングを行う。スクリーニングの成否に重要なeEF1A2-eGFPの発現量が想定より低いのが懸念であるため、より発現量の高い細胞の樹立を計画に加える。スクリーニングで得られた転写制御因子やエピジェネティック因子の解析をすることで、組織特異的な翻訳伸長因子のヘテロジェネイティが確立される仕組みを明らかとする。また、Doxicyclin誘導性の強制発現ならびにノックダウンシステムを用いてeEF1A1とeEF1A2の発現量比を調整する。eEF1A1とeEF1A2はアミノアシルtRNAを翻訳伸長中のリボソームに運ぶ機能を持つため、mRNA上のリボソームの分布や標的となるmRNAに影響が出ると予想される。そこで、eEF1A2/eEF1A1比を調節した細胞のリボソームプロファイル(Ribo-seq)を行うことでeEF1A2/eEF1A1比の違いで翻訳制御を受ける遺伝子群を同定する。さらに、eEF1A2/eEF1A1の発現比の翻訳調節への意義ならびに疾患発症の分子基盤を明らかにするために、疾患関連遺伝子変異を持ったeEF1A2変異体を用いて免疫沈降されるタンパク質の質量分析解析を計画している。eEF1AはアミノアシルtRNAの運搬機能以外の役割も示唆されている。eEF1A1、eEF1A2ならびに変異体eEF1A2の結合するタンパク質に差があるか明らかにすることで、eEF1A2の遺伝子変異が自閉症や拡張性心筋症の原因となるメカニズムをアミノアシルtRNAの運搬機能以外の側面からも解析する。すでに質量分析解析を専門とする研究者と共同研究を始めている。
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Causes of Carryover |
当初計画していた国内学会の参加 と打ち合わせをコロナ禍のため断念したため旅費を使用していない。また、当初の計画で検討していた次世代シーケンスの解析を次年度に移行したため、物品費の差額を次年度に利用することとした。
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