2020 Fiscal Year Research-status Report
神経可塑性を生むPIP2を介したイオンチャネルの時空間動態制御メカニズムの解明
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20K22631
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
好岡 大輔 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (00883084)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 1分子イメージング / 軸索起始部(AIS) / 神経可塑性 / PIP2 / イオンチャネル / 脂質ドメイン / エンドサイトーシス / エキソサイトーシス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、イオンチャネルの空間動態制御とPIP2の関連を明らかにすることを目的とする。まず、PIP2と相互作用するイオンチャネルとしてKCNQ2/3, GABAA受容体そしてグリシン受容体をクローニングし、それらイオンチャネルの細胞内輸送をモニターするため、蛍光標識用タグ(HaloTag)を細胞外領域に融合させた。これにより、形質膜直下に足場タンパク質が密集した神経細胞においてHaloTagがチャネルの拡散障害となることを回避できるとともに、細胞膜と細胞質中のチャネルを分離して染色することが可能となった。HaloTag融合KCNQ3の活性は全細胞パッチクランプ法により確認した。まず、これらHaloTag融合チャネルを蛍光リガンド(TMR)で標識し、全反射照明蛍光顕微鏡を用いてHEK293における生細胞1分子イメージングを実施した。その結果、いずれのチャネルも膜上で三種類の拡散状態を示し、サブマイクロスケールの膜領域にトラップされていることが分かった。特に、KCNQ3のPIP2相互作用部位をアラニンに置換した、低PIP2親和性変異体は制限領域から解放され、拡散係数が2倍に増加することが分かった。さらに、この変異体では、長時間安定して膜に発現するチャネルの割合が減少し、輝点の明滅頻度が増加した。こうした変化はGABAA受容体およびグリシン受容体では見られなかった。また、薬剤によりアクチン重合を阻害、もしくは、コレステロールを除去した場合にも同様に、KCNQ3の拡散係数は増加した。一方、Dynasoreによりクラスリン依存性エンドサイトーシスを阻害した場合にはKCNQ3の遅い拡散状態の占有率が増加した。以上の結果はKCNQ3をトラップする背景構造がカベオラやクラスリン被覆ピットであることを示唆し、KCNQ3がPIP2を介してそれら膜領域にアクセスすることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、イオンチャネルの動態計測を実現するためのコンストラクト作成とイメージング計測・解析系の整備を進めた。本来、KCNQ3の両末端は細胞質側に存在するが、そのN末端にIL2RA由来の1回膜貫通ドメインを付与することで細胞外領域にHaloTagを融合させることに成功した。これにより細胞膜と細胞質中のチャネルを2色に染め分けた蛍光パルスチェイス法を用いて、エキソ・エンドサイトーシスをライブイメージング計測することが可能となった。さらにイオンチャネルが膜に挿入され、側方拡散し、再び内在化するという一連の反応過程を一挙に検出するための1分子計測系を確立した。これによりイノシトールリン脂質とイオンチャネルの相互作用が、イオンチャネルの活性のみならず、その空間動態にも作用することを初めて検出できた。特に、薬理学的実験の結果から、KCNQ3の拡散を制限する膜領域の正体がカベオラやクラスリン被覆ピットであることが示唆されており、PIP2がエンドサイトーシスを制御することで膜上のKCNQ3発現量を調節するという新たな機構が存在する可能性も高まった。よって今後は、膜上で生じるイオンチャネルの小胞ターンオーバーについても、より重点的に調査を進める。こうした研究により、PIP2がイオンチャネルの空間動態制御において担う役割を初めて定義することができると期待される。 上述の通り、研究をおおむね計画通りに進行することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、海馬神経細胞において本年度と同様のイメージング計測・解析を行う。まず、コリン作動薬(カルバコール)を用いて、内在性のムスカリン性アセチルコリン受容体を介したPIP2量の操作を行う。これに加えて、アンキリン結合モチーフを融合したVSPの設計・作成と、そのコンストラクトを用いたAIS局所的なPIP2操作に取り組む。変異体解析と脂質膜操作の両面から、神経細胞におけるPIP2を介したイオンチャネルの時空間動態制御メカニズムの解明を進める。また、イオンチャネルとPIP2の相互作用に変調を与えた結果、イオンチャネルの局在に変化が見られた場合は、同じ実験条件でパッチクランプ法による神経活動記録も実施し、チャネルの空間配置と神経の興奮性を対応づけていく予定である。 上述の通り、今後、遂行する研究内容は基本的に当初の研究計画に従っており、大きな変更点はない。
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Causes of Carryover |
本研究の遂行のためには計測対象とするイオンチャネルの細胞外領域にHaloTagを融合させる必要があるが、Halo-KCNQ3の設計は1回膜貫通領域を余分に付与したキメラKCNQ3をまず作成し、そのN末端にHaloTagを融合させるというやや挑戦的な内容であったため、人工的に付与する膜貫通領域の徹底的な選定・検討を行う必要があった。そのためHaloTag融合コンストラクトの作成に当初の予定より長い期間を要することとなり、神経細胞におけるイメージング計測には本年度中に到達することができなかった。次年度においては、神経細胞を用いた実験および計画外に導入する実験のために予算を使用する。また、これまでに得られた成果を発表するためにも予算を使用する。
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