2020 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of the neuroendocrine control of hatching behavior
Project/Area Number |
20K22645
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
岡本 直樹 筑波大学, 生存ダイナミクス研究センター, 助教 (10577969)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 生得的行動 / 孵化行動 / 神経分泌ペプチド / 孵化ホルモン / キイロショウジョウバエ / 昆虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物の示す多くの生得的行動は、遺伝的要因に加え、環境的要因に応じて柔軟かつ適切に調節される。本研究では、分子遺伝学的技術の発達したモデル生物、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を主に用いて、昆虫の孵化ホルモンの実体を特定し、その産生細胞、作用細胞・組織を起点とした孵化行動の神経・内分泌機構を包括的に理解するとともに、環境情報によるその調節機構を解明することを目指す。 本年度は、孵化行動の神経・内分泌機構を明らかにするために以下の解析を行った。 1. キイロショウジョウバエの孵化ホルモンの有力候補と考えられるCapa及びその受容体(CapaR)の機能欠損変異体系統を用い、それらの孵化率を詳細に解析した結果、ホモ接合体では孵化率が低下するものの、CapaやCapaRを含む遺伝子領域欠損系統(Deficiency系統)とのトランスヘテロ接合体では、Capa及びCapaR変異体ともに孵化率の顕著な低下は観察されないことが明らかになった。これは、当初想定していた孵化ホルモンとして、Capaが機能しないことを示唆する結果である。 2. キイロショウジョウバエの神経分泌ペプチドが孵化ホルモンとして機能するか否かを検証するため、神経分泌ペプチドのプロセシングに関わる様々な酵素をコードする遺伝子を脳神経系特異的にノックダウンし、それらの孵化率を解析した。その結果、生理活性ペプチドのC末端のアミド化に関わる酵素であるペプチジルグリシンαヒドロキシ化モノオキシゲナーゼ(PHM)のノックダウンにより、顕著に孵化率が減少することが明らかになった。この結果は、C末端のアミド化がその生理活性に必須な神経分泌ペプチドが孵化ホルモンとして機能することを示唆する。 以上の結果から、今後はC末端のアミド化がその生理活性に必須な神経分泌ペプチドに着目し、孵化ホルモンの実体を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
キイロショウジョウバエを用いた変異体の詳細な解析により、計画当初に孵化ホルモンの最有力候補として想定していた神経分泌ペプチドのCapaが、孵化ホルモンとしては機能しない可能性が示唆された。 そこで、孵化ホルモンとして神経分泌ペプチドが機能しうるかを今一度検討した結果、神経分泌ペプチドのプロセシングに関わる酵素であるPHMの神経細胞特異的なノックダウンにより、顕著に孵化率が減少することが明らかになった。PHMは、生理活性ペプチドのC末端のアミド化に関わる酵素であることから、C末端のアミド化がその生理活性に必須な神経分泌ペプチドが、孵化ホルモンとして機能することが予想された。 一方、孵化ホルモンとして当初予想していたCapaについては、その後の解析により、幼虫から蛹からの変態過程において極めて重要な生得的行動を調節することが明らかになった。想定外の発見ではあったが、この発見を機に、後胚発生期における生得的行動の調節因子として、Capaに関する詳細な解析も同時進行で進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の解析により、C末端のアミド化がその生理活性に必須な神経分泌ペプチドが孵化ホルモンとして機能することが予想されたことから、キイロショウジョウバエにおいて、特にC末端のアミド化が予想されるペプチドホルモンに着目して、以下の解析を進める。 ペプチドホルモンを産生する様々な神経分泌細胞において特異的に遺伝子発現可能なドライバーを用いて、PHMをノックダウンし、孵化率を解析することにより、孵化行動を調節しうる神経分泌細胞を特定する。特定した神経分泌細胞で産生されることが知られるペプチドホルモンの完全機能欠損変異体を作製し、孵化行動への影響を解析し、孵化ホルモン候補となるペプチドホルモンを改めて選択する。計画当初に孵化ホルモンの最有力候補として想定していた神経分泌ペプチドCapaも、C末端のアミド化が成熟ペプチドの生理活性に必須であることが知られていることから、Capaを含む複数の神経分泌ペプチドがリダンダントに働く可能性も考えられる。そこで、特定した神経分泌細胞で産生されるペプチドホルモンが複数存在する場合は、それらをコードする遺伝子の、二重変異体、三重変異体を作製し、孵化率の解析を行う。特定した神経分泌細胞の投射パターン、孵化行動前後における孵化ホルモン候補の発現・分泌パターンを詳細に解析するとともに、その神経分泌細胞特異的に孵化ホルモン候補遺伝子のノックダウン、神経活動の不活性化・活性化を誘導した際の孵化行動への影響を解析する。また、様々な組織・細胞特異的に孵化ホルモン候補の受容体遺伝子をノックダウンし、孵化行動への影響を解析することにより、特定した孵化ホルモンが作用する組織・細胞を特定する。
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