2020 Fiscal Year Research-status Report
冬眠様選択的スプライシング調節による低温ショックタンパク質の機能の解明
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20K22651
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
堀井 有希 岐阜大学, 高等研究院, 助教 (20888531)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 低温ショックタンパク質 / 選択的スプライシング / 低体温 / 冬眠 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで、低温ショックタンパク質の一つであるCold-inducible RNA-binding protein(CIRP)の発現解析により、冬眠動物であるシリアンハムスターの冬眠時にはCIRPの選択的スプライシングのパターンが変化することを明らかにしてきた。この変化は、冬眠時に効率よくCIRPタンパク質を機能させるための機構である可能性がある。これまで、冬眠しない動物であるマウスとラットにおいて、麻酔薬を用いて、人為的に選択的スプライシングを冬眠様のパターンへ誘導することに成功してきた。本研究の目的は、CIRPの冬眠様のスプライシングパターンの役割を明らかとし、非冬眠動物においても組織障害の起こらない低体温誘導法を考案することである。そこで本年度、ラットへ麻酔を施し、麻酔を調節しながら外部から冷却することにより極度の低体温へ誘導する方法(Shimaoka et al., J Physiol Sci, 2021, 71:10)を用いた検討を行った。この方法は画期的な低体温誘導法であるものの、体温回復直後には血液生化学値が平常時と比較し、高値となった。そのため、人為的にCIRPを冬眠様の選択的スプライシングパターンとする段階を経ることにより、血液生化学値に異常の少ない低体温となるのではないかと考え、その場合のRNA及びタンパク質の定量的解析を試みた。しかし、今年度用いたプロトコールでは、冬眠様の発現へ誘導する処置により血液生化学値の異常が改善するという結果は得られなかった。冬眠様に変化させる処置を行うタイミング等の詳細な検討が必要であることが明らかとなった。また、今年度は、今後CIRPのスプライシングバリアントの機能を詳細に検討するため、単一のスプライシングバリアントのみを発現することのできるマウス系統を共同研究により作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はCIRP及びCIRPのスプライシングバリアントのタンパク質の発現量の解析とともに、2年目が主軸となるin vivo実験のための解析手法の確立を行う計画であった。後者に関しては当初の予定どおり、今年度は、遺伝子の定量的解析、タンパク質解析及び免疫組織学的解析手法の確立を行った。 また、2年目に予定している、CIRPを冬眠様に変化することを介して傷害を回避するような低体温誘導法を確立するという目的のin vivoの実験について、予備実験を行った。しかしながら、冬眠様の選択的スプライシングのパターンへ誘導する処置により、血液生化学値の異常が改善するという結果は得られなかった。また、今後、検討する必要のある実験条件が多いことが示唆された。そのため、今後、効率よく目的を達成するためには、新しい実験手法を取り入れることが重要であると考えた。そこで、共同研究により、ゲノム編集技術を用いたCIRPの選択的スプライシングのうち単一のスプライシングバリアントのみを発現するマウスを複数系統獲得した。本計画は、当初予定されていなかったものの、2年目からCIRPとCIRPのスプライシングバリアントの機能を検討し、冬眠様の選択的スプライシングの変化により低体温障害を回避する方法を開発するという本研究の目的を達成するために大変重要である。 以上の成果により、「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、ゲノム編集により作出されたCIRPのスプライシングバリアントのみを発現するマウスと冬眠時のようにCIRP mRNAのみを発現するマウスをもちいて、低体温へ誘導し、回復させた場合の障害を遺伝子発現解析、組織学的解析等を用いて評価する。 ゲノム編集マウスにおいて明らかとなった評価方法を用いて、野生型マウスにおいても、人為的に冬眠様へ選択的スプライシングを変化させるタイミングや期間について検討し、ゲノム編集マウスと類似の結果が得られるのかどうか調べる。 また、昨年度、結果の得られなかったラットにおいては、マウスの結果を参考にしてプロトコールの検討を行う。確立されたプロトコールにおいて免疫組織学的解析及びタンパク質の定量的解析を行い、CIRP mRNA及びスプライシングバリアントの発現と低体温障害の関連を明らかにすることを目指す。 また、研究結果をまとめ、学会発表及び論文発表を行う。
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