2020 Fiscal Year Research-status Report
Pan属2種のメスの移籍メカニズムとその適応戦略の解明
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20K22667
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
戸田 和弥 京都大学, 霊長類研究所, 研究員 (20881931)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | ボノボ / チンパンジー / 集団間移籍 / 異時性 / 酵素免疫測定法 / クレアチニン / エストロゲン / 尿比重 |
Outline of Annual Research Achievements |
集団で生活する動物にとって、出自集団から他集団への「移籍」は生活史上の重要なイベントである。Pan属のチンパンジーとボノボは遺伝的に極めて近縁であるが、メスの移籍適齢期に大きな差異が認められる(ボノボで6~8歳、チンパンジーで11~13歳)。本研究では、両種のメスの社会的・身体的・性的な発達パターンを精査し比較することで、各種のメスの移籍戦略を理解する。 これまでに収集したデータから、ボノボのメスの母親とのパーティアソシエーション(母親と同じパーティにいる割合)の加齢変化を分析し、メスは移籍前に母親から空間的に独立して行動し始めることを明らかにした。本研究結果は、Primates誌に掲載された。 また、これまでに収集したデータから、ボノボのメスの推定体重(尿比重値あたりのクレアチニン量)、性ホルモンレベル(尿中のエストロゲン代謝物量)、交尾頻度の加齢変化を分析した。その結果、ボノボのメスは「思春期」の初期段階に移籍することが明らかになった。代表者は本研究成果を基に投稿論文化を進めている。 その他、毛利恵子氏と共に尿試料の保存性および抽出率の向上を目的とした実験を行った。予備的な結果ではあるが、本実験から新たな実験手法を提案できそうである。この手法が確立すれば、野生動物を対象とした内分泌学的研究の適応範囲の拡大化が見込める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
野生ボノボのメスの加齢に伴う身体的・性的発達パターンを当初の予定通り分析できた。しかし、コロナ禍の影響で計画していた野生チンパンジーの調査を実施できなかったため、Pan属2種間のメスの発達パターンを比較する段階には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)当初予定していた研究スケジュールを変更する。コロナ禍で先行きは不透明であるが、どうにか海外渡航の目途がたった。5月にウガンダ共和国・カリンズ森林保護区で3か月間のチンパンジー調査を実施する。帰国後、1ヶ月間でホルモンの測定実験を完了させ、Pan属2種間の発達パターンを比較する。 (2)当初の研究計画を拡張する。これまではPan属のメス(0~20歳)だけを対象としていたが、各種の性差についても言及するため同年齢のオスのデータも収集する。これにより、移籍するメスの生活史特性の多角的な理解が進む見込みである。 (3) 論文執筆に注力する。本年度中に、ボノボのメスの性成熟過程と移籍時期との関係性をまとめた論文の公表を目指す。また、内分泌学的研究における尿試料の取り扱いに関する新たな手法の論文化を目指す。
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Causes of Carryover |
研究スケジュールを変更した結果、次年度使用額が生じた。昨年度は、コロナ禍の影響で当初予定していた海外渡航を実施できなかった。その代わりに、ホルモン測定実験の手法開発に注力した。 本年度前期に海外調査を、後期にホルモン測定実験を予定している。主な支出予定は、調査用消耗品、実験消耗品、専門図書の購入と英文校閲費用である。
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