2020 Fiscal Year Research-status Report
動物モデルを用いた発作性運動誘発性ジスキネジアの発症機序の解明と新規治療法の開発
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20K22688
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
八田 大典 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 客員研究員 (60886216)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | ジスキネジア / PRRT2 / マイクロダイアリシス / ドーパミン / PKD |
Outline of Annual Research Achievements |
大脳基底核は不随意運動と関連が深い脳領域であるが、発作性運動誘発性ジスキネジア (PKD) の病態への関連は分かっていない。大脳基底核は黒質から線条体へ投射するドーパミン作動性神経を特徴とすることから、研究代表者はドーパミン作動性神経におけるPRRT2の役割を解析してきた。PKDに関連する変異を導入したPrrt2 KIマウスと野生型マウスの大脳基底核においてマイクロダイアリシスを行い、細胞外ドーパミン量を測定し比較したところ、定常状態では両者に差は見られないのに対し、KClにより神経興奮を誘導した際には、野生型に比べてPrrt2 KIマウスで細胞外ドーパミン量が約6倍増加するという結果を得ている。 令和2年度には、PRRT2によるドーパミン濃度調節機序の解析 (項目1) を行うことを予定していたが、その中でも特にドーパミンの放出機構に着目し、シナプス小胞サイクルに対するPRRT2の役割について解析した。シナプス小胞へのドーパミンの再充填の変化を調べるために、一度KCl刺激によりドーパミンを全て放出させた後に再びKCl刺激し、ドーパミン細胞外濃度を測定したところ、Prrt2 KIマウスは野生型マウスよりも1回目と2回目ともに細胞外ドーパミン濃度が大きかったが、それぞれの1回目と2回目に差はほとんどなかったため、Prrt2変異は、即時放出可能なシナプス小胞へのドーパミン総充填量を増大させると考えられた。 細胞外ドーパミン濃度は放出と回収のバランスで決まるため、令和3年度にはドーパミンの再取り込みに対するPRRT2の役割を解析する予定である。また、細胞外ドーパミン濃度を調節する薬剤をPrrt2 KIマウスに投与した際のPKD発作フェノタイプを解析することにより、PKDがドーパミン恒常性の破綻に起因することの裏付けを行い、PKD治療薬としての有効性についても検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
発作性運動誘発性ジスキネジア (PKD) は不随意運動を特徴とする疾患であるが、運動調節に関わる脳領域である大脳基底核において、どのような異常が起こっているかは分かっていない。ドーパミン作動性神経は大脳基底核に集中的に発現している神経サブタイプであり、運動調節に重要な働きを有するため、研究代表者はドーパミン作動性神経におけるPKDの原因遺伝子PRRT2の役割を解析してきた。令和2年度には麻酔拘束下のマウスの大脳基底核においてKCl連続刺激時のドーパミン放出量をマイクロダイアリシスで定量した。PKDに関連したPrrt2変異を導入したPrrt2 KIマウスでは、KCl刺激により野生型よりも高い細胞外ドーパミン濃度となったが、ドーパミンを枯渇させた後、再度刺激を行った場合にも変異の有無に関わらず1回目と同程度の細胞外放出されたため、Prrt2変異はドーパミンの再充填速度ではなく、充填量のキャパシティを増大させていると考えられた。 また、PRRT2の神経伝達物質放出調節機能がドーパミン作動性神経に特異的であるかを検証するために、大脳基底核におけるグルタミン酸 (Glu)/GABAの細胞外濃度の解析を行った。その結果、刺激を与えない場合の細胞外Glu/GABAの定常濃度はPrrt2変異による違いはないことを確認した。一方、KCl刺激による神経興奮時のGlu/GABAの細胞外濃度は野生型よりもPrrt2 KIマウスの方が高かったが、その上昇率はドーパミンよりも小さかったため、PRRT2は特にドーパミンの放出に寄与が大きいと考えられた。 本研究により、大脳基底核におけるドーパミン放出量の増加がPKDの発症に寄与することが示唆された。以上より、研究は順調に進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
計画書に沿って本研究課題を進める。 (項目1)Prrt2 KIマウスの行動解析とPKD発作フェノタイプの評価系の確立: トレッドミル (ベルト式強制走行装置) を用いて、Prrt2 KIマウスに運動負荷を与え、発作が誘発されるかを検証する。目視では確認しにくい運動障害の発作については、ベルトの移動速度を段階的に上げていき、走行不能になった時点の速度で評価できると考えている。 (項目2)ドーパミン作動性ニューロンとPKDフェノタイプの関連性の解析と治療薬の探索: PKDが運動時の過剰な細胞外ドーパミン量に起因するならば、ドーパミンの分解阻害薬や再取り込み阻害薬、レボドパなどの薬剤はPKD発作を増悪させると考えられるため、項目1で確立した実験系を用いて検証する。同時にドーパミン受容体アンタゴニストがPKD治療薬として有効かについても検証する。 (項目3)PRRT2による神経活動時ドーパミン恒常性制御の分子機序の解析: PRRT2が神経活動時の細胞外ドーパミン量を制御する機序として、ドーパミンの放出抑制、再取り込み促進、産生抑制、分解促進などが考えられるが、そのいずれに起因するかを解析する。産生と分解は組織中のドーパミン総量を規定するため、それらの関与を検証するために線条体ホモジネート中のドーパミン量を測定する。再取り込みの制御が関わるかを検証するためにDAT阻害剤を添加した灌流液を用いてマイクロダイアリシスを行う予定である。 (項目4)PRRT2切断阻害薬のPKD治療に対する有効性の解析: PKDはPRRT2のハプロ不全により発症するため、半減したPRRT2を量的に補完する治療が有効と考えらえる。本研究では、ヘテロ接合型Prrt2 KIマウスにPRRT2切断阻害薬 (NMDA受容体アンタゴニスト) を投与し、項目1で確立した実験系を用いてPKDの治療効果を検証する。
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Causes of Carryover |
本研究では、PKDの原因遺伝子PRRT2がドーパミン恒常性を調節する機序をマイクロダイアリシスで明らかにした後、その機序に即した薬剤をPrrt2 KIマウスに投与し、発作の治療効果を検証することで、ドーパミン恒常性の破綻が発症に関わっていることの裏付けと有効な治療法の基盤構築を行うことを計画しているが、令和2年度ではマウス大脳基底核におけるマイクロダイアリシスによるPRRT2の機能解析を重点的に行ったため、マウスの行動解析には着手せず、それに必要な機材の購入がなかったことから、次年度使用額が生じた。令和3年度には、マイクロダイアリシスに使用するプローブ等の費用や、マウスの行動解析を行うための装置を購入するための費用のために、繰り越し分の研究費を使用する予定である。
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