2020 Fiscal Year Research-status Report
肺がんの転移に関与する転写調節因子による薬物耐性獲得メカニズムの解明
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20K22717
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Research Institution | Takasaki University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
張 協義 高崎健康福祉大学, 薬学部, 博士研究員 (60878510)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 薬物排出系トランスポーター / 足場タンパク / SNAIファミリー / HCC827肺がん細胞 / がん転移 / 転写調節因子 / 上皮間葉転換 / 肺がん |
Outline of Annual Research Achievements |
P糖タンパク(P-glycoprotein: P-gp)や乳がん耐性タンパク(BCRP),多剤耐性タンパク2(MRP2)は細胞膜上に局在して薬物を細胞外に排出するトランスポーター(TP)であり,がんの多剤耐性に関与している.我々は,肺がん細胞に転写調節因子Snailを導入したとき,TPの足場タンパクであるERMタンパクのなかでMoesin(Msn)のmRNAの発現のみが誘導され,P-gpのmRNA量や細胞内総発現量は増えないにも関わらず,細胞膜に発現するP-gpは増え,結果としてP-gpの活性が高まることを見出した(Snail→Msn→P-gp連関系).これと同様の現象が臨床でも見出されるか否か肺がん患者から採取した検体を用いて検討したところ,SnailのmRNA発現量(がんの悪性度)はMsnのみならずRadixin(Rdx)やEzrin(Ezr)とも正相関し,P-gpのmRNAとも正相関した. 本研究では,Snail以外の転写調節因子であるSlugおよびSmucが,Msn以外のEzr,Rdxの活性を調節して間接的に,あるいは足場タンパクを介さずに直接的にP-gp,BCRPおよびMRP2の活性に関与しているか否かを,肺がん細胞および肺がん患者から採取した検体を用いて確認することを目的とした. 群馬県がんセンターの協力のもとに肺がん患者からの組織検体を入手し,それらの検体を用いて検討したところ,SlugはMRP2の機能を,SmucはBCRPの機能を調節する可能性があることが示された.さらに,Slug遺伝子をHCC827肺がん細胞に導入したところ,MRP2のmRNA量は予測に反しコントロールに比べて減少していた.以上の結果から,Slug因子はMRP2の発現に関与している可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は当初の計画通り,「群馬県がんセンターから入手済みの肺がん患者の組織検体からmRNAを採取して,リアルタイムPCRでSlugおよびSmucやP-gp,BCRPおよびMRP2のmRNA発現量を測定(研究実施計画記載)」した.9人の患者のmRNAを解析したところ,mRNA絶対値(がん組織)はSnail mRNA発現レベルとRdx(r=0.667)およびMsn(r=0.700),SlugとMRP2(r=0.800),SmucとBCRP(r=0.818),P-gpとRdx(r=0.929)およびMsn(r=0.912)の間に有意な相関を示した.mRNA相対値(がん組織/正常組織)は,Snail mRNA発現レベルとMsn(r=0.792),MsnとP-gp(r=0.866),SlugとMRP2(r=0.949),SmucとBCRP(r=0.871)の間に有意な相関を示した.これらの結果により,SlugはMRP2の機能を,SmucはBCRPの機能を調節する可能性があることが示された.以上の結果を踏まえて,現在,論文を投稿中である. 「HCC827細胞を用いて,Slug遺伝子をHCC827肺がん細胞にトランスフェクションして,排出系TPとERMのmRNA細胞内発現量を網羅的に測定・解析(研究実施計画記載)」した.肺がん細胞にSlugを導入したとき,SlugのmRNA量はコントロールに比べて増加した.MRP2のmRNA量は,Slug導入した細胞で減少していた.一方,ERMタンパクのmRNAの発現量には統計学的差異が認められなかった. 以上の結果から,Slug因子はMRP2の発現に関与している可能性が示唆されたが,今後,Western Blottingで,細胞全体と細胞膜上タンパク発現量を検証する必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,肺がんにおけるSnail→Msn→P-gp連関系が確認された.さらに,転写調節因子→ERM・薬物排出系TP連関系の存在を明らかにするため,肺がん細胞および肺がん患者から採取した検体を用いて確認する. 臨床検体によって,SlugはMRP2の機能を,SmucはBCRPの機能を調節する可能性があることを示した.今後,「それらに絞ってin vitroの検討(転写調節因子発現系の構築,足場タンパクとTPのmRNA,およびタンパク発現量,引き続き機能)(研究計画調書記載)」の解析を進める.具体的には,Slugを導入したHCC827肺がん細胞を用いて,Western Blottingによって,細胞全体と細胞膜上タンパク発現量(Slug,Smuc,ERMタンパク,BCRPとMRP2)を測定する.さらに,MRP2の基質であるCDCFDAおよびBCRPの基質認識であるSN-38を用いて,細胞への薬物の取り込みを観察することにより,TPの活性の変動を確認する.また,細胞細胞生存率を測定する予定である.
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Research Products
(1 results)