2020 Fiscal Year Research-status Report
神経変性疾患における「野生型」SOD1タンパク質の構造異常
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20K22772
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 正寛 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 特任助教 (60877124)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 銅・亜鉛スーパーオキシドディスムターゼ / ミスフォールド構造 / 神経変性疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、各種神経変性疾患の患者から単離した野生型SOD1(銅・亜鉛スーパーオキシドディスムターゼ)に見られる構造異常の詳細を明らかにし、異常化したSOD1が病態形成に果たす役割を理解する。これまでの研究によると、SOD1遺伝子変異による筋萎縮性側索硬化症(ALS)では、変異に伴いアミノ酸置換されたSOD1(変異型SOD1)が構造異常を呈し(ミスフォールドし)、毒性の発揮に関与すると考えられている。また、ALS症例の9割近くにはSOD1遺伝子変異が認められないものの、野生型SOD1のミスフォールディングが疾患の発症に関与している可能性も指摘されている。しかし、野生型SOD1の病理学的役割については賛否両論があり、神経変性疾患に関連する研究分野に残された大きな課題の一つとされている。そこで本研究では、ALSや他の神経変性疾患の患者から野生型SOD1を単離し、その毒性について培養細胞を用いて評価するとともに、免疫化学や質量分析法を駆使することで、野生型SOD1に生じうるミスフォールディングの機序を明らかにすることが主な研究目的である。また、脳脊髄液におけるミスフォールド型SOD1量と臨床症状および重症度を比較する。共通した臨床症状がみられれば、ミスフォールド型SOD1を標的とした新たな創薬ターゲットの提案に繋がることも考えられる。本年度は、免疫沈降やサンドウィッチELISAによりミスフォールド型SOD1の検出を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ミスフォールド型SOD1を検出する目的でサンドウィッチELISAおよび免疫沈降を行った。まず、ミスフォールド型SOD1を認識するとされる抗体を用いて、サンドウィッチELISAにより変異を導入した精製タンパク質(SOD1/G37R, G93A)が検出できるか検討したところ、ミスフォールド型SOD1に対する抗体の反応性が確認できた。また、ALS患者の脳脊髄液においてもミスフォールド型SOD1の存在を示唆する結果が得られた。続いて、ミスフォールド型SOD1の免疫沈降が可能な抗体を探索し、EDIおよびUbB抗体を用いることとした。EDI抗体は、SOD1の二量体界面をエピトープして認識する抗体であり、またUbB抗体は、SOD1のアンフォールド領域を認識する抗体である。EDIおよびUbB抗体は、いずれも構造異常を呈さない二量体を形成した野生型SOD1は認識せず、ミスフォールド型SOD1を認識する抗体として市販されている。これらの抗体を用いて免疫沈降を行った結果、EDIおよびUbB抗体は、いずれもミスフォールド型SOD1を免疫沈降できなかったため、効率よく免疫沈降できる他の抗体を探索した。免疫沈降が可能な抗体として、新たに入手した2種について、まずサンドウィッチELISAを行った結果、これらの抗体は、野生型SOD1には反応せず、ミスフォールド型SOD1を特異的に認識することがわかった。今後は、これらの抗体を用いて免疫沈降が可能であるか検討し、ミスフォールド型SOD1と疾患の因果関係を明らかとしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
免疫沈降法によりミスフォールド型SOD1の検出が可能とされる抗体を用いて、今後の研究を遂行する。この抗体を用いて、ALS患者由来の脳脊髄液におけるミスフォールド型SOD1の単離が確認できれば、ALSを含む各種の神経変性疾患患者の脳脊髄液からSOD1を単離し、培養細胞によりその毒性を評価するとともに、構造的な特徴を明らかにする。さらに、ミスフォールド型SOD1の量や構造的な特徴の違いにより、臨床症状が異なるか比較する予定である。本研究で得られる成果に基づいて、野生型SOD1のミスフォールディングをターゲットとした神経変性疾患の新たな治療法開発に繋げたい。
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Causes of Carryover |
昨年度は緊急事態宣言の発令により2ヶ月間以上研究活動が行えず、消耗品を購入する必要のない期間が存在した。また、進捗状況に記載の通り、当初の計画より研究活動がやや遅れており、全て既存の研究設備を用いて行ったため、培養細胞系などに必要な物品等を新規に購入する必要がなかった。今年度は、研究進度により新規の機器や消耗品を取りそろえる必要があることが予想されたことから、次年度に計上することとした。
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