2020 Fiscal Year Research-status Report
ロイコトリエンB4第二受容体による気道上皮細胞保護機構の解明
Project/Area Number |
20K22790
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
遅 源 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 博士研究員 (30802871)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 肺炎球菌毒素 PLY / ロイコトリエンB4第二受容体 BLT2 / 細胞障害 / 細胞膜修復 |
Outline of Annual Research Achievements |
肺炎球菌肺炎は特に幼児や老人で致命率が高い疾患である。この個体死亡は、肺炎球菌が産生する膜孔形成毒素PLYによると考えられているが、詳細は不明である。申請者は、生理活性脂質受容体であるBLT2の遺伝子欠損マウスがPLY毒素に感受性が高く、重篤な急性肺傷害を生じて早期に死に至ることに着目した。本研究は、BLT2を過剰発現するヒト肺胞上皮細胞とBLT2欠損マウスから単離培養した角化細胞を用いて、BLT2の発現はPLY依存的な細胞死が抑制されることを明らかとなった。また、PLYは細胞膜のCHOに結合して多量体を形成し、細胞膜に孔をあけて細胞死を引き起こすことが知られているが、BLT2発現は細胞のCHOの量や分布に影響を与えず、PLYへの結合能も変化させなかった。一方、電子顕微鏡を用いた解析で、BLT2発現細胞ではPLYの添加後すぐに収縮し、多数の突起が形成される様子が観察された。BLT2シグナルが細胞骨格を再編成させることで、細胞膜の障害を速やかに修復している可能性を考えた。細胞膜障害の修復は、細胞外からのCa2+流入が必要であることが報告されている。そこで、Ca2+含有培地で観察されたBLT2の保護作用はCa2+を枯渇させると完全に消失した。さらに、細胞骨格分子の動態を調べたところ、BLT2発現細胞ではPLY添加によるF-actinの形成が亢進することが明らかとなった。また、Ca2+を枯渇させると、このF-actinの形成亢進が消失したことから、BLT2発現細胞ではCa2+の流入依存的に細胞骨格分子の再編成が生じ細胞膜障害の修復を促進していることが示唆された。本研究では、上皮細胞や血管内皮細胞に高発現するBLT2というGタンパク質共役型受容体が、肺炎球菌毒素PLYにより障害された膜を修復することで細胞死を抑制するという全く新しい可能性を示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、生理活性脂質受容体であるBLT2の遺伝子欠損マウスが肺炎球菌の産生する膜孔形成毒素であるPLYに感受性が高く、重篤な急性肺傷害を生じて早期に死に至ることに着目し、BLT2がPLY依存的な上皮細胞障害を抑制するメカニズムを明らかにすることを目的とした。本年度行った研究で、BLT2の発現がPLY依存的な上皮細胞死を抑制することを定量的に示した。また、BLT2はPLYへの結合能を低下させることで細胞障害を抑制しているのではなく、PLY により形成された細胞膜孔からのCa2+の流入を引き金して生じることで、障害を受けた細胞膜を素早く修復させている可能性を示した。本研究は、Gタンパク質共役型受容体のもつ新しい生理機能を示すものであり、計画通り概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、BLT2の細胞膜保護効果のメカニズムを深く解明するため、1.BLT2がCa2+流入依存的な細胞膜障害の抑制作用の具体的な分子メカニズムの同定。細胞膜障害の修復は、細胞外からのCa2+流入によって、PLY形成された孔または細胞膜の障害部位を細胞外小胞MVの形で切り出すことで修復している可能性を考え、PLY依存的にMVが放出されるか調べる。具体的には、回収したMVに含まれるタンパク質と脂質の組成を、細胞膜由来のミクロソームと比較し、MVに濃縮される物質を同定する。さらに、MVに特異的なタンパク質に対する抗体や、細胞骨格分子に対する抗体を用いて細胞を染色し、PLY添加後の細胞の動態を調べるとともに、各種阻害剤を用いて細胞膜修復に与える影響を明らかにする。2.BLT2による上皮細胞死の抑制作用の検証。BLT2がPLYによる細胞死を抑制している可能性を想定して、細胞死の経路を明らかにする。アポトーシス、ピロトーシスおよびネクロトーシスの特異的阻害剤で前処理し、PLY依存的な細胞障害のレベルを比較する。また、Caspase-1、-3、RIP1、RIP3、MLKLの活性化を比較し、BLT2が与える影響を調べる。更に、BLT2欠損マウスの気道内にPLYを投与する実験を行い、生体内でも同様の細胞死が生じているかを検証する。3.細胞障害保護作用におけるBLT2活性化の影響。上述した実験において、BLT2活性化物質(脂肪酸12-HHT、BLT2作働薬CAY10583)の添加実験を行い、BLT2の活性化が細胞障害保護作用に与える影響を観察する。
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Causes of Carryover |
今年度、予定通りに研究を進めることができた。来年度、新たに必要となった実験を追加して研究を完成させたのち、論文報告を行う予定である。必要となる投稿費用は、来年度に繰越した費用から使用する予定である。
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