2020 Fiscal Year Research-status Report
中皮腫オルガノイドを用いたがん幹細胞治療の臨床応用に向けた基盤構築
Project/Area Number |
20K22805
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊藤 文哉 名古屋大学, 医学系研究科, 研究員 (20882012)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 中皮 / 悪性中皮腫 / オルガノイド / Apical-Basal Polarity / 分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、中皮腫における幹細胞制御機構の知見を統合し、悪性中皮腫オルガノイドを用いた幹細胞を標的とする治療法を臨床へと応用するための基盤を構築することである。その実現のために初年度は大きく3つのことに取り組んだ。1点目は正常中皮オルガノイドと中皮腫オルガノイドの培養条件の精査である。幹細胞培養の3因子である上皮成長因子(EGF)、NOGGIN、R-spondin1のうち、EGFおよびR-spondin1を除くことで、オルガノイド増生率が20-40 %ほど有意に低下しており中皮腫幹細胞の増生に必要であることが判明した。2点目は正常中皮オルガノイドの中皮分化能解析モデルを構築することである。先行研究において中皮前駆細胞がWT1を中皮分化細胞がMSLNを発現する可能性があると報告された。そこで、WT1とMSLNのプロモーター領域をクローニングし、その下流にGFPやLuciferaseが発現するレンチウイルスベクターの構築が完了し、これらをマウス中皮細胞に恒常的に発現する細胞の準備が完了した。次年度にこれらの細胞をマトリゲルにてオルガノイド培養を行い幹細胞因子添加の有無にて分化能を形態的および蛋白質発現などの解析にて評価する。 3点目は既に樹立したマウス中皮腫オルガノイドの抗がん剤感受性を調べるとともに中皮腫治療の第一選択であるシスプラチン受容体CTR1の発現との相関性について解析を行った。通常の培養方法(2次元培養)ではCTR1の発現量が低く、CTR1の局在が上皮型と肉腫型で変わらないのに対し、オルガノイド培養ではCTR1の局在が細胞極性に応じて一部に局在することが判明した。現在、CTR1の過剰発現系およびノックダウン系の構築に取り組み、実際にApical-Basal polarityが薬剤感受性に重要かについての解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は中皮腫の幹細胞治療の実装であり、その実現のために初年度は大きく3つのことに取り組んだ。1点目は正常中皮・中皮腫オルガノイドの培養条件の精査である。幹細胞培養の3因子である上皮成長因子(EGF)、NOGGIN、R-spondin1のうち、EGFおよびR-spondin1を除くことで、オルガノイド増生率が20-40 %ほど有意に低下しており中皮腫幹細胞の増生に必要であることが判明した。さらにWnt、FGF、HCなどについても同様に解析を行ったが、3因子以上にオルガノイド増殖に影響を与える因子は見つからなかった。 2点目は正常中皮オルガノイドの中皮分化能解析モデルを構築することである。先行研究において中皮前駆細胞がWT1を中皮分化細胞がMSLNを発現する可能性があると報告された。そこで、WT1とMSLNのプロモーター領域をクローニングし、その下流にGFPやLuciferaseが発現するベクターの構築および恒常的に発現する細胞の準備が完了した。次年度にこれらの細胞のオルガノイド培養を行い幹細胞因子添加の有無にて分化能を形態的および蛋白質発現などの解析にて評価する。 3点目は既に樹立したマウス中皮腫オルガノイドの抗がん剤感受性を調べるとともに中皮腫治療の第一選択であるシスプラチンの受容体CTR1の発現との相関性について解析を行った。通常の培養方法(2次元培養)ではCTR1の発現量が低く、CTR1の局在が上皮型と肉腫型で変わらないのに対し、オルガノイド培養ではCTR1の局在が細胞極性に応じて一部に局在することが判明した。現在、CTR1の過剰発現系およびノックダウン系の構築に取り組み、実際にApical-Basal polarityが薬剤感受性に重要かについての解析を行っている。 以上の3点は研究計画全体のおよそ40-50%に相当しており、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
中皮腫オルガノイドを用いた診療基盤の構築に向け、初年度ではマウス中皮・中皮腫オルガノイド培養方法のブラッシュアップと薬剤感受性に関する解析のセットアップが完了した。次年度では、初年度で最適化したマウス中皮腫サンプルのオルガノイド培養法をヒト中皮腫サンプルへ適用し、ヒト中皮腫オルガノイドの樹立に取り組む。樹立した中皮腫オルガノイドに関して、幹細胞性、治療抵抗性、転移浸潤能についての情報を得つつ、生体に近い培養条件を分子生物学的および形態的手法により解析する。 さらに、オルガノイド樹立に成功した中皮・中皮腫の2次元培養とオルガノイド培養とをトランスクリプトーム解析による比較にて、正常中皮幹細胞と中皮腫幹細胞との理解に基づいた治療戦略について取り組む。具体的にはRNA-シーケンスにより得られたデータをR-studio等でデータの整形および解析し、既存の治療法であるシスプラチンやペメトレキセドの受容体であるCTR1とFR-αなどの発現を解析するとともに、米国食品医薬品局(FDA)で2020年10月に認可された中皮腫に対する2つ目の全身治療であるオプジーボ(ニボルマブ)とヤーボイ(イピリムマブ)の受容体についても同様に解析し、生体外における治療感受性の分子レベルでの理解を深めることに取り組む。 オルガノイド培養では3次元を維持した状態での培養、すなわちApical-Basal polarityを維持した状態での薬剤感受性データがより正確な治療予測に結び付くと考えられる。そこで、Apical-Basal Polarityを崩す試薬および初年度で準備したノックダウン系を用いた薬剤感受性に関するデータを得る。 本プロジェクトにて得られた成果として、これらの知見をまとめ論文化する予定である。
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