2020 Fiscal Year Research-status Report
CRISPR/dCas9-TET1系を用いた転移因子のがん細胞における機能の解明
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20K22808
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大谷 仁志 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (10627087)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 転移因子 / 自然免疫系 / DNAメチル化 / エピゲノム編集技術 / がん治療 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、内在性レトロウイルス(ERVs)を含む転移因子の宿主自然免疫系活性化に対する潜在的機能をがん細胞において明らかにすることである。DNAメチル化阻害剤である5-アザシチジンは、血液腫瘍治療の第一選択薬として用いられているが、その作用機序は完全には解明されていない。近年の研究から、転移因子由来のRNAが宿主の自然免疫系を活性化し、がん細胞のアポトーシスを誘導すると推察されている。しかしながら、どの配列の低メチル化が重要なのかは不明である。そこで本研究課題では、サイト特異的にDNA脱メチル化を促すエピゲノム編集技術(CRISPR/dCas9-TET1)を用いて転移因子の機能解明に挑んだ。その後、自然免疫系の活性化を調査した。約3千コピーで構成される進化的に若いERVsの一種であるLTR12Cファミリーのコンセンサス配列を特定し、プロモーター領域にガイドRNAを設計することで、複数コピーをCRISPR/dCas9-TET1を用いて同時に発現誘導した。しかしながら、十分な発現誘導が認められなかったため、手法を変えCRISPR/dCas9-VP64 systemを用いることとした。Pol IIのリクルーターであるVP64タンパク質を特定の領域に集め、遺伝子の発現上昇を促すCRISPR activation systemとして知られている。その結果、LTR12Cの高い発現を誘導することに成功した。さらに、ガイドRNAの適切な設計箇所を特定するため、21種の異なるgRNAを用いたスクリーニングを行い、最も効率よく働くgRNAが転写開始地点のおよそ100bp上流に位置することを見出した。しかしながら、自然免疫系遺伝子群の発現に変化は認められなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は、自然免疫系活性化のトリガーとしての、内在性レトロウイルス(ERVs)を含む転移因子の潜在的役割を明らかし、がん治療戦略に新たな知見を加えることである。当初は、特定のゲノム領域にDNA脱メチル化を促す酵素(TET1)をリクルートすることで、サイト特異的にDNA メチル化状態を操作する技術であるCRISPR/dCas9-TET1 systemを用いて、特定の転移因子ファミリーの発現を誘導することに挑んだが、Pol IIのリクルーターであるVP64タンパク質を特定の領域に集め、遺伝子の発現上昇を促すCRISPR activation systemであるCRISPR/dCas9-VP64の方がより効率的に働くことを見出したため、こちらのシステムを採用した。現在までにERVsの発現上昇に伴う自然免疫系の活性化は認められていないが、反復配列であるERVsの発現誘導を促すシステムの確立には成功しているので、順次候補となるERVsに対するCRISPR activationを行うことで自然免疫系活性化のトリガーとなる転移因子を特定できると期待される。そのため、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
CRISPR activation後のLTR12Cの発現レベルは、5-アザシチジン投与後と比較しても非常に高いものであった。従ってLTR12C由来のRNAが宿主の自然免疫系に認識されることは無いものと考えられる。ヒトゲノムには400種ほどのERVsファミリーが存在しているが、5-アザシチジン投与後に強い転写活性を示すものは20種ほどであることが、先行研究により判明している。そのため、これら20種のERVsをCRISPR activationにより活性化させることに順次挑み、自然免疫系活性化のトリガーとなるERVsを特定する。特に進化的に最も若い内在性レトロウイルスであり、ウイルスゲノムの完全長が保たれているERV-Fcの機能を優先的に調査する。また、一連の研究から宿主自然免疫系の活性化が認められなかった場合においても、本研究課題には十分な学術的価値があると考えている。特定の転移因子ファミリーに含まれる複数コピーを同時にCRISPR activationさせたのち、細胞表現型および遺伝子発現プロファイルを詳細に解析し、転移因子の未知の機能の解明に迫る。転移因子はそのRNAとしての機能だけではなく、転写調節領域として宿主の遺伝子の発現を直接的に制御することが知られている。本研究課題では特定の転移因子の転写調節領域としての機能を明らかにできると推察されるため、併せて解析を行う。
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Causes of Carryover |
Total RNA-seq等のハイスループットシークエンシングを外部機関(Macrogen 社)に委託することを計画しているため、2年度目に多くの予算が必要と判断した。
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