2020 Fiscal Year Research-status Report
CDK2による過剰中心体の二極への収束を標的とした肺癌治療戦略の確立
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20K22833
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川上 正敬 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (90438648)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | サイクリン依存性キナーゼ2 / 過剰中心体 / 多極性細胞分裂 / 肺癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
正常細胞では中心体数が2つに厳密に制御されるが、癌細胞では中心体が2つより多い過剰な中心体の存在が知られ、これは癌細胞のhallmarkの1つである。細胞分裂の際に過剰中心体が二極に収束することで癌細胞は正常な二極性細胞分裂が可能となるが、申請者らはこれまでにサイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)の阻害により、過剰中心体収束が阻害され、それにより癌細胞が多極性細胞分裂を余儀なくされアポトーシスに至るanaphase catastropheが誘導されることを報告している(Kawakami M et al.J Natl Cancer Inst.2017; Kawakami M et al.Mol Cancer Ther.2018)。本研究では、同機序の臨床への適用を目指し、CDK2特異性が高い次世代CDK2阻害薬であるCYC065を用い、肺癌での抗癌活性を検討する。 まず、CYC065のCDK2への特異性を確認するため、開発元の英国Cyclacel社と共同実験で、同薬剤の各種キナーゼへのIC50を解析した。結果、例えば同じCDKファミリー内でもIC50はCDK1:578 nM, CDK2:5 nM, CDK7:193 nMと、CDK2への優れた選択性を確認した。 続いて、マウス及びヒト肺癌細胞株、コントロールとしてマウス肺胞上皮細胞(C10)とヒト気道上皮細胞(BEAS-2B)を用い、細胞増殖アッセイを施行した。CYC065の肺癌細胞における細胞増殖抑制効果を確認し、さらに、コントロール細胞では細胞増殖抑制効果が乏しく、癌細胞とコントロール細胞でCYC065への感受性に差があることを見出した。 同じ細胞を用いて、アポトーシスアッセイも行い、CYC065により肺癌細胞ではアポトーシスが容易に誘導され、一方で正常コントロール細胞ではアポトーシスの誘導はほとんどされないことを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の最大の目的は、CDK2阻害によるanaphase catastrophe誘導の臨床適用であり、そのため、本研究で用いるCDK2阻害薬は、CDK2へ特異性が高く他のキナーゼへの作用が最小限であることが必須となる。今回、CDK2選択性の高い次世代CDK2阻害薬として英国のCyclacel社のCYC065を用いることとしたが、予備実験として行った同薬剤処理後のいくつかの細胞株での細胞周期解析で、細胞腫によってはCDK2以外のCDK阻害の関与を疑うG2/M arrestが観察された。そこで、CYC065のCDK2特異性を確認するために、本格的な実験開始の前に、Cyclacel社に問い合わせをして、CYC065による各種キナーゼ阻害作用の正確なIC50の解析を行うこととした。その結果、高いCDK2選択性を確認し、上記のG2/M arrestはCDK2阻害での中心体収束阻害による細胞分裂の破綻を示唆していると考えられた。一連の解析は本格的な実験を開始する前に必要なステップであったが、この解析結果でのCYC065のCDK2選択性の確認を余儀なくされたため、当初の計画よりも実験の開始が遅延した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はアポトーシス、細胞周期アッセイ、また細胞分裂観察のための蛍光染色など、in vitroアッセイは複数のアッセイを並行して行い、肺癌手術検体を用いた免疫染色もこれらの実験と同時進行で行う。 in vivo実験のための肺癌syngeneic mouse xenograft modelについては、同モデルを多数保持する米国MDアンダーソンがんセンターのThoracic Surgery Departmentの研究室と既に共同研究の了承を得て、使用可能な状況であり、すぐにin vivo実験に取り掛かる手筈は整えてある。また、CYC065は経口投与が可能であるが、予備実験として、マウスでの耐容量は既に検討済みである。
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Causes of Carryover |
本研究課題では、CDK2阻害によるanaphase catastrophe誘導機構の臨床適用を目的としており、実験ではCDK2阻害薬として英国のCyclacel社のCYC065を用いることとしたが、上記の研究目的の達成のためには、阻害薬のCDK2への高い特異性が必須となる。そのため、本研究を始めるにあたって、当初の申請の際には予定はしていなかったが、本格的な実験開始の前にCYC065のCDK2選択性を改めて確認する必要があると考えた。このため、Cyclacel社に問い合わせをして、CYC065の各種キナーゼ阻害作用の正確なIC50の解析を依頼し、了承を得た。この解析はCyclacel社で行われ、費用も同社の負担で行われたため、申請者からの支出はなかった。研究課題の本格的な実験は、このIC50の解析でCDK2選択性を確認してからとなるため、今年度に計画していた実験は次年度に合わせて行う予定であり、支出予定額も次年度と合わせて計上予定とした。
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Research Products
(2 results)