2020 Fiscal Year Research-status Report
菌の動態と宿主の病理組織学的変化に着眼したレプトスピラ感染症の重症化機構の解明
Project/Area Number |
20K22942
|
Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
宮原 敏 産業医科大学, 医学部, 助教 (50878329)
|
Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
Keywords | レプトスピラ症 / 人獣共通感染症 / 病理学 / ハムスターモデル / 腎不全 |
Outline of Annual Research Achievements |
レプトスピラ感染症は、病原性レプトスピラによって世界中で発生する人獣共通感染症である。大部分は軽症にとどまり自然治癒するとされるが、一部は重症化し多臓器不全を示して死に至る。どのような病態で重症化するのか、それに関わる菌体側の病原因子が何であるのかは未だ解明されていない。本研究では、Leptospira interrogans serovar Manilae L495株の短期培養株感染で起こる重症型モデルと、長期培養株感染で起こる軽症型モデルについて、病理組織学的特徴と、菌体の表現型、遺伝子発現の違いを調べることで、重症化を起こす病原因子を特定することを目指す。 初年度では、重症型モデルと軽症型モデルの病理組織学的特徴の違いおよび、L495株を由来とした短期培養株と長期培養株の微生物学的特徴の違いについて検討した。病理組織学的特徴については、腎臓に有意な所見の違いがあることを見出した。重症型では高度の腎出血を呈し、間質にはびまん性にレプトスピラ菌体の分布が認められ、血液生化学的に腎不全を示した。一方で軽症型では、急性期に尿細管間質性腎炎が限定的な範囲に見られ、その広がりは菌体の分布と概ね一致していた。また慢性期では尿細管の萎縮が種々の程度に認められ、生化学的な腎機能障害の程度と関連が見られた。初年度の成果から、腎臓の所見の違いが多臓器不全を招いて重症化を起こす要因の一つである可能性が示唆された。また、短期培養株と長期培養株の微生物学的特徴の違いについては、培地中での増殖速度およびコロニーの形態について比較したが、有意な差がなく、病原性の違いが菌体の病原因子や免疫からの回避能に由来する可能性が疑われた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度には重症型と軽症型の病態の違いを病理組織学的に明らかにすることを目指した。初年度の成果から重症型と軽症型では、腎臓の組織所見に有意な変化があること、また血液生化学的な腎機能障害の程度と関連があることを見出し、病態を分ける主要な要因であると考えられた。この知見は、今後解析をすすめる上で核となるものであり、初年度の予定は概ね達成されたと判断される。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は重症型と軽症型の病態を分ける要因として特に腎臓に焦点を絞って解析をすすめる。腎臓における病理組織学的差異をもたらす機序を、①感染後、菌が腎臓に定着するまでの動態②腎臓に定着した菌体の組織障害③腎臓における宿主の免疫応答の点から解析し、明らかにすることを目指す。 また、宿主の病理組織学的特徴に加えて、運動能、組織接着能、栄養要求性、自然免疫への抵抗性、組織障害活性等について遺伝学的、生理学的に短期培養株と長期培養株の2株を比較し、重症化をもたらす因子を絞り込む。遺伝子発現については、RNA-seq法等を用いて網羅的に解析し、発現に差が見られた遺伝子については、変異体の作成や相補実験によって、病原因子であることを決定する。
|
Causes of Carryover |
初年度は新型コロナウイルス感染症に関わる問題で、当初の予定に比べ、物品の調達、学会への参加が困難となり、使用額が減少する結果となった。今年度は、初年度に調達できなかった物品の購入、共同機材の使用料、論文の英文校正、投稿料等が必要であり、繰越額も含めて使用する計画である。
|