2020 Fiscal Year Research-status Report
難治性拒絶反応克服のための抗原制御の試みと誘導性HLAに対する免疫応答の解明
Project/Area Number |
20K22965
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Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
前仲 亮宏 愛知医科大学, その他部局等, 薬剤師 (80886193)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 移植免疫 / 内皮細胞 / HLA class II |
Outline of Annual Research Achievements |
臓器移植において、ドナー特異的HLA抗体( Donor Specific HLA Antibody; DSA)の中でも移植後新規に産生されるHLA-class II DR (HLA-DR) に対するde novo DSAは、慢性期の抗体関連型拒絶反応 (Antibody mediated rejection; AMR)と深く関連する。現在、de novo DSAによる拒絶反応の治療は、レシピエント免疫系を標的として行われるが、長期生着が向上した明確な報告はない。本研究はグラフト内皮細胞上のドナー抗原(HLA class II)を対象とし、その発現抑制に焦点を当てている。 これまでに、免疫抑制剤のエベロリムス(EVR)と脂質異常症治療薬のフルバスタチン(FLU)が、内皮細胞上のIFNγ誘導性HLA-DRの発現量を減少させた。他にも高血圧、糖尿病、心不全などの治療薬を幅広くスクリーニングしたが、同様の効果を示す薬剤はなかった。通常、内皮細胞はIFNγの刺激で、まずCIITA(Class II Transactivator)が発現上昇し、HLA-DRの転写を促進、さらに翻訳後修飾を受けて細胞膜上に発現するが、FLUはHLA-DRのmRNAを抑制する一方で、EVRはどちらのmRNAも抑制しないことから、FLUは転写に、EVRは翻訳後修飾に作用してHLA-DRの発現量を減少させると示唆された。 また、HLA class IIの翻訳後修飾を担うと言われるタンパク質の一つにCD63がある。今回、EVRにより内皮細胞上のCD63の発現量が減少した。そこでCD63をノックアウトすると、逆にHLA-DRの発現量が増加した。これは「CD63の発現量の減少がHLA-DRの発現量を減少させた」という仮説とは真逆の結果であるが、CD63がHLA class IIの発現に重要な影響を与える可能性を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
臓器移植後維持期において、ドナーのHLAのソースは移植臓器である。これまでの研究にて、様々な臨床で使用される薬剤の中から、EVRとFLUが内皮細胞のIFNγ誘導性HLA-DRの発現量を減少させる結果を得たことから、de novo DSAに起因する抗体関連型拒絶反応の克服を、抗原制御の視点からアプローチできる可能性が見出されたと考える。加えて、mRNAの制御や翻訳後修飾の制御が、HLA-DRの発現量を減少させることに繋がると判明した。 さらに、HLA-DRの翻訳後修飾に関わるとされるタンパク質のであるCD63のノックアウトにより、HLA-DRの発現量が増加したことから、CD63の重要性が示唆された。抗原提示細胞において、細胞膜上に発現したHLA class IIは、エンドサイトーシスで細胞内に取り込まれ再利用される一方で、一部はエクソソームの表面タンパク質として細胞外へ放出される。また、CD63はエクソソームの検出マーカーとしても知られるほど、エクソソームに高発現のタンパク質である。これらのことから、CD63はHLA class IIの翻訳後修飾や、あるいはエクソソームとしてHLA class IIを細胞外への放出制御を担うタンパク質として重要な位置付けで関連するタンパク質であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は内皮細胞のHLA抗原の制御を行うことで、拒絶反応に繋がる免疫応答を抑制するための研究である。先行実験と2020年度の研究結果から、内皮細胞上のIFNγ誘導性HLA class IIは薬剤により制御できる可能性があること、制御しうる候補薬剤(EVRおよびFLU)、さらにはHLA class IIの発現制御に関わる可能性のあるタンパク質(CD63)を見出した。今後、より有益な結果を得るために、内皮細胞のIFNγ誘導性HLA class IIが実際にリンパ球系の免疫応答に及ぼす影響を明らかにする必要があるとともに、CD63がHLA class IIの発現へ与える影響を検討することで、EVRが示した内皮細胞上のIFNγ誘導性HLA class IIの発現量の減少効果のメカニズム解明を行う。
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