2021 Fiscal Year Research-status Report
オミクス解析による結石形成分子ネットワーク解明とゲノム創薬による新規治療薬の開発
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20K22982
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
茶谷 亮輔 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 臨床研究医 (80881755)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | オミクス解析 / 尿路結石症 / トランスクリプトーム解析 / プロテオーム解析 / メタボローム解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「オミクス解析による結石形成分子ネットワーク解明とゲノム創薬による新規治療薬の開発」と題しており、他因子疾患である尿路結石形成のメカニズム解明と創薬を目指している。尿路結石症は遺伝的な要因と環境要因が複雑に関係して発症することがこれまでの報告で分かっている。それを裏付けるように多くの関連分子が報告されているため、これらの分子を網羅的に調べるオミクス解析が有効と考え本研究を執り行っている。 本研究はStep1「検体収集」、Step2「検体のマルチオミクス解析」、Step3「ゲノム創薬」の3段階で構成されている。 Step1は、尿路結石患者から検体を回収してStep2の解析まで適切に保存することが目的である。患者から同意を取得、十分な説明を行い、検体を採取して保存するシステムの構築を行い患者の検体採取をすでに開始している。 Step2は、Step1で得た検体に適切な網羅的解析を行い、解析することを目的とする。近年、網羅的解析法は日進月歩に発展しており、その中から本研究に最適の解析法を選ぶことが重要である。特にたんぱく、代謝産物の網羅的解析やシングルセル解析はゲノムやRNAの解析に比べ技術的に新しく、本研究で解析予定である腎乳頭を正しく評価できるかを十分に検証する必要がある。それらをより正確に算出するためのパイロット実験として、マウスの腎臓検体において遺伝子発現解析、プロテオーム解析、メタボローム解析を行い、結石症患者の検体に行う解析法を決定する。 Step3では、Step2と公開されているデータベースから創薬ターゲットを導出し、動物実験で安全性、有効性を確認する。また既存の他疾患に使用されていてすでに安全性が示されている薬剤から治療薬を導き出す、ドラッグリポジショニングを行うことも目標の一つである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究開始時に予想していた2年間の進捗としてはやや遅れていると考える。2点予期していなかった事項があった。 一つ目に、Step2における尿路結石症患者の検体に対する解析法を決定するための、モデル動物の解析が難航しているという点が挙げられる。 疾患モデル動物の一つの臓器に遺伝子発現解析、プロテオーム解析、メタボローム解析を同時に行う研究は世界的にも珍しく、研究する意義が高い反面解析の煩雑さが課題となっている。モデル動物の解析自体は成果を挙げており、腎臓において尿路結石症と関連する可能性が高い13分子を同定した。これらを一つ一つ検証して、ヒトのどの検体にどのような解析を施すのがよいか判断する必要がある。 二つ目に、Step2でヒトに行う解析法が急速に発展してきており、研究開始当初想定していた解析法を見直す必要が出てきたということが挙がる。具体的には、遺伝子発現解析、プロテオーム解析、メタボローム解析について、臓器や血液を対象にして行う場合は検体を一塊にして解析を行うバルク解析を想定していた。しかしながら近年、特に遺伝子発現解析の分野でシングルセル解析が発展してきた。これまでの遺伝子発現解析のように、多種多様な細胞をひとまとめにして遺伝子発現を測定するのではなく、1細胞ごとに遺伝子発現を定量することができ、細胞種特異的な解析を可能にする技術である。これ以外にも空間遺伝子発現解析法という、病理組織から直接mRNAを抽出することで、顕微的空間の遺伝子発現を直接定量する技術も使用できるようになっている。これらの新技術を本研究に取り入れるべきか否かを追加で判断する必要があり、現在行っているモデル動物の解析をさらに詳細に行う必要があった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究のStep1「検体収集」、Step2「検体のマルチオミクス解析」、Step3「ゲノム創薬」において、喫緊の課題はStep2における具体的な解析法の選定である。 検体として、尿、血液、腎臓検体それぞれにどの解析法を適応するのが最も情報量が多いかを、動物実験の解析を急ぎ判断する必要がある。解析法が決定次第、解析可能な委託先を選定して解析を行う。 マルチオミクス解析はバイオインフォマティクス分野でも先進的な解析技術を必要としており、確実に有効な解析法がないのが現状である。非結石症患者と結石症患者を比較するケースコントロール解析を主軸としつつ、遺伝子型と量的形質の関連をみるQTL解析や、各解析を組み合わせたクラスター解析等、得られたデータに最適な解析法を模索する必要がある。このStep2で尿路結石症の発症に重要な役割を担っている分子、及びパスウェイを同定する。 Step3はStep2で得られた分子、パスウェイから有効かつ実現可能なドラッグ候補を導出する。ここで導き出されたドラッグの候補を元に、低分子ドラッグライブラリを作成して、確立した結晶貪食実験を行い、有効なドラッグ候補を更に絞り込む。それをモデル動物で薬剤の安全性と有効性を証明する。またドラッグ候補の中に既に他疾患への使用が承認されているものについては、ドラッグリポジショニングの候補として、in vitro、動物実験で有効性を証明した後に実臨床での利用を目指す。
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Causes of Carryover |
研究1) 継続的なゲノム情報と臨床情報の集積、すなわちバイオバンクの形成、研究2)対象検体の遺伝情報の解析と組織に含まれる分子の横断的オミクス解析、研究3)ゲノム創薬の3つのステップで研究を続けていく。計画自体は順調な滑り出しであったがCOVID-19による通常の医療業務が大幅に変更となり、予定してていた研究を進めることができなかった。また国際・国内学会出張も計画していたが、出張することもできなかった。このため次年度使用が生じた。最終年度として、研究2)3)の結果を出して行きたい。
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Research Products
(1 results)