2020 Fiscal Year Research-status Report
社会的ストレスを起因とする疼痛下行抑制系経路の変調
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20K23120
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
川崎 詩織 日本大学, 歯学部, 専修研究員 (30876397)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 中脳水道灰白質 / 下行性疼痛抑制系 / 情動 / 慢性疼痛 |
Outline of Annual Research Achievements |
下行性疼痛抑制系を司る中脳水道周囲灰白質の中でも、特に慢性痛に関与すると考えられている腹外側部(vlPAG)に着目し疼痛制御系の中枢神経回路に変調をきたす可能性がある脳領域について解剖学的に検討しさらに、vlPAGに存在するニューロンの電気生理学的特徴について検索した。 実験にはVGAT-Venus-ChAT-TdTomatoトランスジェニックラットを用い、逆行性トレーサーであるコレラトキシンB (CTB)をvlPAGに注入した。1週間後にCTB陽性細胞が観察される脳領域について投射ニューロンの形態学的特性を解析した。さらにvlPAGに存在するニューロンタイプを分類し、各ニューロンごとのムスカリン性コリン受容体作動薬であるカルバコールによる神経細胞活動の変化ついても検索を行った CTB陽性細胞は視床下部腹側核と扁桃体中心核のほか,島皮質,前頭前野および一次体性感覚野に分布が認められた。vlPAGには異なる膜特性を有するコリン作動性ニューロンや抑制性ニューロン、またどちらにも分類されないニューロンが存在していることが分かった。3種類のニューロンそれぞれに対して、カルバコール投与を開始すると、コリン作動性ニューロンにおいて発火頻度が減少した一方で抑制性ニューロンでは発火頻度の増加傾向が認められた。また、どちらにも分類されないニューロンにおいても、発火頻度の増加が認められた。 以上の結果からvlPAGにおいて、ムスカリン性受容体が神経活動の興奮性/抑制性のどちらにも関与している可能性が示唆され、vlPAGに存在する種々の神経細胞がアセチルコリンに対して異なる応答もしくは相互作用することで疼痛制御に寄与している可能性が考えられた。 さらに中脳水道周囲灰白質は,情動や睡眠・覚醒サイクルを制御する脳領域のみならず、口腔に関連する大脳皮質からも入力を受けることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究開始に際し、中脳水道灰白質の特に慢性疼痛に関与するとされている、腹外側部への投射ニューロン元である高次脳領域の特定を第一段階として行った。中脳水道灰白質外側部が多領域から投射を受けていたため目的とする領域選定に時間を要した。 逆行性トレーサー注入に際しても、中脳水道灰白質が吻尾側的に長い脳領域のため、目的としている部位に注入することに対して、訓練を要したため多少時間がかかった。 また、中脳水道灰白質腹外側部の神経活動を記録するにあたって、多種類のニューロンタイプが認められたため、本格的に研究を開始する前に種々のニューロン特性について検索する必要性が出てきた。このニューロンタイプを分類するにあたって、例数が必要であったが、本研究で対象としている中脳水道灰白質の標本の枚数が限られることに加え、神経細胞の膜特性を分類しうるパラメーターについても、さまざま検討したため、相当に時間を要した。 現時点では中脳水道灰白質腹外側部に存在する種々のニューロンの特性について、本研究室で識別できる範囲内である程度分類できてきている状態である。また、中脳水道灰白質腹外側部へ投射する、高次脳領域の傾向がある程度つかめてきているが、より確かなマッピングを行うために中脳水道灰白質の吻尾側的に逆行性トレーサーを注入し、詳細な投射ニューロンの解剖学的解析も同時に行っている。 現在はもう一段階として、投射元の傾向から慢性ストレスと疼痛制御に関係があると推察される部位に対してチャネルロドプシンを発現させ、中脳水道灰白質腹外側部に与える影響について評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方針として、ストレス関連領域に対してチャネルロドプシンを十分に発現させ、中脳水道灰白質での光応答を確実に確認することが最大の目的となる。現時点で、目的部位へのチャネルロドプシンの発現には成功しているが、至適記録条件(ウイルス注入量、記録までの日数、光刺激強度)を模索している。早期に至適条件を設定し、本格的に稼働させていけるように努める。 また、本研究で対象としているストレス関連領域から中脳水道灰白質への投射がどのような経路をたどるのか、また、どのようなニューロンに投射するのかについての詳細が不明なため、こちらの検索も必要となってくる。最終的には、ストレス関連領域からの投射を受けた中脳水道灰白質のニューロンと、そこに存在するニューロン間の局所回路について検索していく予定である。局所回路の存在がわかり、傾向がつかめてきたら、薬物投与を行い、シナプス伝達の変化を見る予定である。現時点で考えている薬物としては、中枢において、疼痛との関係の詳細が不明な点が多い、ムスカリン性コリン受容体とアセチルコリンに着目していく。 局所回路の検索にあたっては、複数本の記録電極で記録する技術が必須となってくるため、さらにパッチクランプ技術の向上に努めていく。 解剖学的形態学的解析もより例数を増やし、詳細で明確なマッピングも同時並行で行う。マッピングに際し、中脳水道灰白質は吻尾側的に長い脳領域のため、逆行性トレーサーの注入部位(座標)を変えて打ち分ける技術の向上も行う。
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Causes of Carryover |
助成金申請時は、光学遺伝子学的手法を用いるための473nm青色レーザーおよび、顕微鏡への接続ポートの購入を考えていた。しかし、研究開始時に中脳水道灰白質への投射経路や研究対象にすべき脳領域を二次元的な画像解析のみでは明確にすることに限界があったため、ターゲット部位の特定に困難を極めた。 そこで低倍率のレンズを購入し脳幹から大脳にかけてを三次元的に撮影し解析を行ってから、研究を開始することとなった。そのために必要となる10倍のレンズを合算で購入したため、473nm青色レーザー購入を昨年度は延期せざるを得なかった。 本年度、改めて繰越金と令和3年度助成金を合わせて、473nm青色レーザーや、顕微鏡へ光源装置を設置するためのポート増設に助成金を使用する予定である。
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