2020 Fiscal Year Research-status Report
動物モデルを用いた知覚における内部モデルの神経動態の解明
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20K23317
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石津 光太郎 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (80880137)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | エビデンスベース意思決定 / バイアスベース意思決定 / 知覚生成 / 脳内内部モデル / 細胞外電気生理計測 / オプトジェネティクス / 移動エントロピー |
Outline of Annual Research Achievements |
われわれは普段,時間遅れのない知覚を経験している.一方で,われわれの脳は神経伝搬分遅れた外界の情報しか知りえない.そのため,脳は実際に入ってきた感覚信号に,これまでの感覚信号の入力履歴から構築した内部モデルを対応づけて,もっともらしい外界を予測・推定することで時間遅れのない知覚を生成しているとされる.しかしながら,この内部モデルの神経基盤や予測の神経動態はいまだに確認されていない.知覚や予測に関する脳内内部モデルの神経動態が明らかになれば,知覚生成メカニズムの理解が深まるとともに,ニューラルネットワークや人工知能研究への応用などの展開が期待される. 本研究では,マウスを動物モデルに用いた「知覚・認知と意思決定プロセス」を大脳皮質内の局所神経回路レベルでの神経動態の解明を目指す.当該年度は,(1)識別タスクの設計,および(2)タスク中に細胞外電気生理計測を行い,複数の単一ニューロンの発火パターンを計測した. (1)識別タスクの設計:マウスの行動からマウスの知覚内容を推定できるようなタスクを設計した.音の高低とスパウトの左右が紐づけられた実験系を製作し,マウスに左右のスパウトを舐め分けさせることで教示音の高低を識別させた.加えて,左右のスパウトの報酬量が異なるように設定した.結果として,マウスは教示音がはっきりしたパターンではスパウトの報酬比に左右されず正しい側のスパウトを選択し,教示音が明確でないパターンでは報酬量の多いスパウトを選択しがちであった.これによりマウスの行動と識別度を紐付けることに成功した. (2)タスク中に細胞外電気生理計測:次に,マウスの脳に電極プローブを刺入して,タスク中の神経活動計測を行った.今後は,マウスがはっきりと知覚できているときと,知覚の判別があいまいな場合の局所神経回路の神経動態を精査することで,脳内での知覚生成メカニズムの解明を目指す.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
タスク設計:マウスに純音シークエンスの高低を識別させる2者択一課題を設計した.マウスは眼前の2本のスパウトのうち,教示音に対応した側を舐めることで報酬を得る.タスクでは,教示音の提示時間や高音・低音の混在率を変化させて教示音の曖昧度を操作した.さらに2本のスパウトから得られる報酬量に差を作り100トライアルごとに入れ替えた.マウスは教示音が明確なパターンでは報酬比に左右されず正しいスパウトを選択し,教示音が曖昧なパターンでは報酬量の多いスパウトを選択しがちであった.前者は感覚入力に基づくエビデンスベース型の意思決定,後者は報酬バイアスに基づくバイアスベース型の意思決定をしていると考えられる. タスク中の細胞外電気生理計測:頭部拘束下のマウスにプローブを刺入して神経活動を計測する系を確立した.計測前日までにマウス頭蓋にプローブ刺入用の穴をあけておき,タスク直前に計測用のプローブ(NeuoPixels1.0)を刺入してタスク中の神経活動を計測した.上記のタスクを学習した2匹のワイルドタイプ・マウスを用いて左右の大脳皮質から,聴覚野,頭頂連合野,FOF(Frontal Orienting Field),mPFCの計8か所を対象とし,1か所につき4セッション(4日間)の神経活動計測を行った.計測終了後は開頭部に封止処置を施した後に,次の計測箇所に開頭処置を施し,同様にタスク中の神経活動計測を繰り返した.また,各計測で得られたデータについてスパイクソーティングにより単一ニューロンの活動データを抽出した.1か所につき1回の計測で100~200の単一ニューロンのデータを得た. オプトジェネティクス:難航していたCold Spring Harbor研究所(米)からの遺伝子改変マウスの輸送が2020年11月に完了した.現在,マウスの繁殖および各系統の掛け合わせマウスの作成途上にある.
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Strategy for Future Research Activity |
タスク設計:申請当初は音の高低とスパウトの左右との紐づけを急に入れ替えることでマウスに大きな予測誤差を引き起こす実験を予定していた.しかし,この方法ではマウスがタスクを途中で放棄してしまう例が散見されたため,[進捗状況]に報告した内容に変更した. 電気生理計測:申請当初はプローブの脳内慢性留置を予定していたが,使い回しの点から計測時のみプローブを刺入する手法に改めた.また,同一個体内の異なる皮質領野に2本のプローブを刺入して計測する系は実装したが,手法の難易度が高く不安定なため,1本のプローブを複数日かけて複数領野に刺入・計測する手法に変更した.現在まで2個体のワイルドタイプ・マウスから電気生理データを得たが,定量的な評価のために8個体程度までN数を積み上げる方針である. 遺伝子改変マウスにおける抑制ニューロン群の操作:申請当初はタスク中のカルシウムイメージングによる蛍光観察を行い,意思決定プロセスに重要な大脳皮質部位を特定した後に電気生理計測を行う予定であった.しかし,遺伝子改変マウスの導入が遅れたため,各皮質部位から網羅的に電気生理計測を行う手法に変更した.現在,遺伝子改変マウスは繁殖中の段階で,高品質な遺伝子改変マウスの安定供給ラインが完成次第,遺伝子改変マウスを用いてレーザーによる大脳皮質背側部表層の特定部位の抑制ニューロン群の賦活化操作実験を行う.意思決定課題中に皮質の特定部位を抑制した際の行動変化を精査することで,知覚・認知‐意思決定プロセスにおいて,因果的に重要な役割を果たしている皮質領野を探索する. 解析:課題中の神経活動時系列変化に対して,移動エントロピー解析を用いて局所神経回路レベルでの神経伝達の流れを推定し,脳内内部モデルの修正,の手掛かりを探索する.また,意思決定のDrift-Diffusionモデルとの対応付けを行い,得られた知見と理論の統合を図る.
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Causes of Carryover |
研究がスムーズに進み,消耗品の購入が当初想定していたよりも少額に抑えられたため
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