2020 Fiscal Year Research-status Report
標準物質の有無に依存しないPFASsの網羅的半定量法の開発
Project/Area Number |
20K23364
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
雪岡 聖 京都大学, 地球環境学堂, 研究員 (30883699)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | ペルおよびポリフルオロアルキル物質(PFASs) / 網羅的半定量法 / 精密質量分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
環境残留性に加え、遺伝子損傷性を有するペルおよびポリフルオロアルキル物質(以下、PFASs)は4,000種類以上存在し、地球規模で汚染が拡散している。火災事故をより効率的に鎮火するために、撥水性・耐熱性を有する界面活性剤としてPFASsが泡消火剤中に使用されている。特に航空関連施設周辺水域からのPFASsの検出事例が多く報告され、国際的な課題となっている。国内では、沖縄の消火活動訓練施設周辺に位置する浄水源から規制対象であるPFASsが検出され、ヒトへの健康影響も懸念されている。精密質量分析により浄水源から規制物質と同様の化学構造を有する116種類のPFASsの存在が明らかとなっている(Yukioka et al., 2020)。しかし、その内、約6割は標準物質がなく、存在量を把握するための評価手法が未整備であり、その汚染の全容が不明慮である。そこで本研究では、標準物質の有無に依存しないPFASs網羅的半定量法の開発を目的とする。精密質量分析から得られる実測値と計量化学理論に基づく半定量の理論値の関係性から、網羅的半定量法を新たに検討する。さらに既存の分析機器を駆使し、対象物質を有機フッ素量として包括的に評価し、半定量値の妥当性の検証を行う。本研究は、得られた半定量情報を実測・理論・包括的評価の側面から多角的解釈を行うとともに、階層別のルールを提案し、新機軸“類似度”を用いた網羅的汚染解析を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、2020年11月9日~11日に沖縄県の消火活動訓練施設周辺で調査を実施した。比謝川流域における河川水(7地点)および湧水(5地点)を採取した。長田川, 比謝川下流, 比謝川ポンプ場周辺, 屋良ムルチ, 大工廻川, 比謝川上流, 長浜ダム, ヌルガー, 屋良ヒージャーガー, 比謝川ポンプ場周辺湧水,ウブガー, シリ―ガーを対象とした。ガラス繊維ろ紙でろ過した溶存態試料を対象にWAXカートリッジを用いて、固相抽出を行った。カートリッジから0.1%水酸化アンモニウムを含むメタノールで溶出した試料を最終液とし、LC-MS/MSを用いて、15種のPFAAsの分析を行った。標準サロゲート物質を用いた添加回収試験の結果、50±9~130±16%(変動係数30%未満)であった。消火活動訓練施設周辺ではない比謝川上流および長浜ダムのPFOSの濃度は17 ng/L, 13 ng/Lであり、PFOAの濃度は9 ng/L, 5 ng/Lであった。一方、消火活動訓練施設からの排水の影響受けている可能性が考えられる河川水のPFOSの濃度は177~504 ng/Lであり、PFOAの濃度は16~54 ng/Lであった。また、消火活動訓練施設周辺の湧水はPFOSの濃度は537~2,200 ng/Lであり、PFOA濃度は87~230 ng/Lであった。本研究では、精密質量分析装置を用いた網羅的半定量法の検討を効率よく行うために、まず第一に、検出される可能性の高い消火剤関連PFASsを対象に、LC-MS/MSを用いてスクリーニング分析条件を検討した。本研究では、市販されているPFASs標準物質の情報をもとに、10種類のペルフルオロアルキル鎖長が4, 6, 8の消火剤関連PFASsをリスト化し、MRM条件を予想し、分析を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、主に沖縄県の消火活動訓練施設周辺水域における河川水および湧水を対象に定量可能なPFAAsの結果を示すとともに、LC-MS/MSによるMRM分析から消火剤関連PFASsのスクリーニング分析を実施した。本定量結果およびスクリーニング結果をもとに、精密質量分析装置を用いたスクリーニング分析を行うとともに、得られた半定量値の妥当性を検討する予定である。具体的に、以下の検討を行う。【1】精密質量分析装置を用いて、網羅的にPFASsの半定量値の実測値を得るとともに、官能基と分子量で体系的に整理する。【2】計量化学理論に基づき、機械学習を援用して分子構造情報から半定量値の理論値を算出する。精密質量分析から得られた実測値と計量化学理論に基づく半定量の理論値の関係性から、本半定量法を評価する。しかしながら、半定量値はあくまでも予測値であり、その妥当性を検証する必要がある。そこで、【3】有機フッ素量として、得られた半定量値の包括的評価を行う。液体クロマトグラフィーにより対象物質を分取し、燃焼イオンクロマトグラフィーを用いて“有機フッ素量”として測定し、半定量値の妥当性を評価する。上記の検討項目から得られた半定量情報を多角的解釈することで、半定量値と分子構造の新たな関係式を導き出す。具体的には、約30種類の代表物質の検量線を用いて、100種類のPFASsの“量”を説明できる評価手法の導入を行う。上記の3つの検討結果を踏まえて、PFASsを網羅的に半定量するために、新機軸“類似度”に基づく階層別ルールの提案することを到達目標とする。対象物質と標準物質との類似度に基づきに、レベル別に半定量値を整理する。具体的には、官能基, 分子量, 分子構造情報を基準に評価する。本研究では、PFASsの網羅的半定量法の確立とその評価基準の一般化を目指す。
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Causes of Carryover |
本研究では、網羅的半定量法の開発を実施するにあたり、消耗品としてPFASsの標準物質の購入を予定していたが、新型コロナウイルス拡大のため、国際便で輸入するのに時間を要したため、その費用は次年度に使用する予定に計画を変更した。また、国際学会に参加するための旅費を使用する予定を計画していたが、新型コロナウイルス拡大が理由で中止となったため、現在は次年度に開催される他国内外の学会の渡航費として使用する予定である。
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