2020 Fiscal Year Research-status Report
Incorporation of particulate matters into sea ice: a key factor of material cycle in polar oceans
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20K23370
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
伊藤 優人 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(北極環境変動総合研究センター), ポストドクトラル研究員 (40887907)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | フラジルアイス / 海氷 / 係留観測 / 薄片解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は海氷が如何にして粒子状の物質を取り込むかを解明することである。令和2年度の主な研究活動として、1.係留観測によるデータの解析、2. 海氷試料の分析 を行った。
1. 海氷による物質の取り込みについて、過去の研究から新成氷「フラジルアイス」との関連が指摘されているが、自然環境下でのフラジルアイスの観測例が不足しており、根本的にその挙動が理解されていない。そこで、過去にオホーツク海サハリン沖の水深1000m程度の海域で実施された超音波流速計(ADCP)による係留観測で得られた音響データを解析し、結氷期におけるフラジルアイスの挙動を調べた。流氷域の南下に伴い観測点付近が氷縁域に位置した際に海中にフラジルアイスが検知された。フラジルアイスは海面から最深で水面下100m付近にまで検知され、従来考えられていたよりも遙かに深い場所までその存在が示された。また、フラジルアイスの生成が起こる条件は海面が開放水面であり、風速が毎秒8mを超す強風環境であることが示唆された。本結果については1件の国内学会での口頭発表を行い、また国際誌へと投稿し、現在査読が行われている。
2. 過去2回に渡り春季にアラスカ最北部のラグーンで採取した海氷試料の解析・分析を行った。一部の試料には明らかな汚れ層が存在した。低温実験室にて海氷試料全層の結晶構造を解析したところ、汚れ層とその他の層の構造が完全に異なり、各々は粒状氷と短冊状氷で構成されており、フラジルアイスの生成および固化が物質の取り込みに大きく寄与する一方で、海氷が熱的に成長した際には物質は氷から除外される傾向がわかった。海氷内の含有粒子も分析し、それらが概ね直径50μm未満のものであり、粒子の濃度は汚れ層の値がその他の層の値より1桁程度大きいことが示された。本結果に関しては国際学会でポスター発表を1件を行い、また国際誌への投稿を準備している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度の活動として、過去に採取した海氷の解析・分析および北海道オホーツク海での海氷採取を目的とする観測の実施を予定していた。しかしながら、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言等の対応により、後者の観測は中止となった。また、国内での移動が制限された為、低温実験室での作業が必須となる海氷の解析・分析も予定の3割程度に留まった。 そのような制限の下でも、アラスカ北部のラグーンにて過去に採取した海氷サンプルのみについては全サンプルの解析・分析を終えることができ、その結果を整理して国際学会にてポスター発表を行った。現在は国際誌への論文投稿に向けて結果をまとめている。アラスカ北部のラグーンでの観測は過去2シーズンに渡り実施したものである。解析の結果、この2シーズンでは気象条件の影響から氷が異なる成長過程を辿ったことが分かり、粒状氷形成を伴う擾乱環境下での新成氷(フラジルアイス)の生成・固化過程のみによって主に海氷に物質(海底堆積物)が取り込まれることが明瞭に示唆された。この結果はラグーンにおけるケース・スタディに留まらず、他の海域にも拡張が可能であると期待される。 海氷解析・分析や観測の大部分を中止せざるを得ない状況となったため、翌年度に予定をしていた過去の係留観測で得られたデータの解析を前倒しで実施した。対象としたデータは1999年および2000年にオホーツク海サハリン沖で取得されたものであるが、音響データは使用されずに蓄積された状態であった。このデータを解析した結果、フラジルアイスの生成が生じる気象条件や、フラジルアイスが海中に存在しうる深さが明らかとなった。これらは過去の研究からは定性的な記述があるのみで、定量的な議論を行ったのは本研究が初となる。この結果は国内学会での口頭発表を行った他、国際誌へと論文を投稿し、現在は査読が進められている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度の本研究の課題として、まず第一に、令和2年度に新型コロナウイルスの感染拡大により制限された海氷サンプルの解析・分析の実施があげられる。ただし、実施の可否は今後の社会状況に大きく依存する。国内での移動が可能となり、解析や分析が可能となった時点において素早く行動し、短期的に集中して目的のサンプルの解析・分析を終えることを計画している。これに向けて設備や人員の面での調整も既に始めている。得られた結果を用いた論文を令和3年度内に国際誌に投稿し、受理されることを目指す。 新型コロナウイルスの感染拡大の情勢次第では予定していた海氷サンプルの解析・分析が全く行うことのできない、または一部に制限される状況も考えられる。その場合、本研究の一つの柱である海氷の解析・分析に関しては昨年度で作業が終わっているもののみに留めるなどエフォートを縮小し、もう一つの柱である過去に実施された係留観測によるデータの解析のエフォートを増やす対応を検討している。オホーツク海サハリン沖での観測データは既に前倒しで解析を終えているが、北極海や南大洋で得られたデータが手つかずの状態で蓄積されており、これらの解析を進め、国際誌への論文の投稿および受理を目指す。 令和2年度はやむなく中止となった冬期オホーツク海での海氷観測についても、令和3年度での実施を計画している。海上保安庁の巡視船「そうや」によるオホーツク海沖合での海氷採取や、サロマ湖やウトロ等の沿岸域での海氷採取を海洋生物や化学の研究者と共同で実施することを予定している。また、秋季には北極海での砕氷船による国際連携観測が予定されている。これらの観測で採取した海氷サンプルの解析や分析を通じて得られた結果を国内外の学会において発表することを目指す。
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Causes of Carryover |
令和2年度においては新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、国内の研究機関間の移動を伴う海氷サンプルの分析や、オホーツク海沿岸域などで実施を予定していた海氷採取を目的とする現地観測が大部分で中止となった。これらの観測や分析に関わる諸経費に予算の重点を置いていた令和2年度の研究費の支出額が大幅に減少した。 本研究では海氷による物質の取り込み過程を、過去の係留観測から得られたデータの解析や海氷サンプルの分析を通じて解明することを目的としている。令和2年度に観測や分析が実施できず、前者の研究は計画より前倒しで進んでいるが、後者の遂行が遅れている。そこで令和3年度においては、既存の海氷サンプルの分析や新たな海氷サンプルの取得および分析に注力する。特に海氷観測について、当初は令和2年度と3年度にオホーツク海の沖合と沿岸域において1ヶ月半程度の冬期観測を実施し、海氷を採取する予定であった。令和2年度の観測が全て中止となり、当初の計画通りに令和3年度の観測を実施しても研究の遂行に充分な量の海氷サンプルの採取は難しい。そこで、令和2年度の研究費の未使用分を用いて以下の計画を追加する。1.オホーツク海沿岸部での海氷採取を目的とする観測の実施期間を1ヶ月程度増やす。2.北極海で秋季に1ヶ月程度に渡り実施される砕氷船観測航海に参加し、海氷を採取する。3.海氷サンプルの分析を当初計画より回数を増やす。
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Research Products
(2 results)